アメリカの政治分析家であるマイケル・パレンティは、母国を批判する著書を何冊も出版している。その中には今から15年ほど前にアメリカ帝国主義を描いた「Against Empire」がある。
アメリカ帝国主義
アメリカを帝国と呼ぶパレンティの主張は当時主流メディアから黙殺された。アメリカが行なっていることは、軍事力を使って侵略し、新たな領土や天然資源を獲得する「帝国主義」とは違い、自国の安全保障のためであり、また他国の独裁主義を倒してその国の国民のために民主主義を広めるというのがその理由だった。しかしアフガニスタンやイラク侵略を契機に、多くの人がアメリカが『帝国』であることを認め始めたように思う。
帝国主義とは、一言でいうと他者を支配することである。そしてそのプロセスは、支配力を持つ投資家が自国政府を自分の利益のために動かすようになり、次に他の国や地域も、軍事力や経済力を使って自己の利益拡大のために、土地、労働力、天然資源、資本、市場を搾取していく。言い換えると、権力のためではなく、一部の人が大きな富を手にすることを可能たらしめるために、帝国主義を推し進めているといえる。
20世紀の歴史をみれば、実際に、金融家や実業家の意向のまま世界に軍隊が派遣され、現住民の労働力、市場、そして天然資源の略奪が行なわれた。土地や資源だけでなく、侵略されたその土地で多くの人々が殺された。それは今、この時にも、帝国主義のアメリカがイラクやアフガニスタンで行なっていることであり、イランやイエメンに対してとっている軍事的脅迫である。
去る1月、ハイチを大地震が襲ったが、これに対してアメリカが送ったのは救急隊ではなく海兵隊員だった。過去にも同じ海兵隊がハイチに乗り込み、大量虐殺を行ない、またわずか数年前には、アメリカが気に入らないハイチの大統領を海兵隊が追放している。帝国は、その国の支配特権階級が他国の富を自由に使えるように、何としても独立し自立した国家の誕生を阻む。そのために国家権力、軍事力が使われるのである。
私はアメリカを念頭にこれを書いているが、日本の帝国主義も同じようなプロセスを辿ったと思っている。富の拡大を目指した特権階級、財閥の存在なしに、大日本帝国はありえなかっただろう。
マイケル・パレンティの著書に一貫して書かれていることは、アメリカが金権政治国家だということだ。つまり国家そのものが工業、商業、金融からメディアにいたるまで一握りの特権階級によって運営されている。彼らは「資本主義」「民主主義」といった言葉を巧みに使いながら、実際は国境を越えて収奪を行なっている。
衰退した大英帝国に代わり、第二次大戦からアメリカが唯一の帝国となった。皮肉なことにその帝国主義を支えているのが日本であり、昨年末時点であいかわらず中国に次ぐ米国債保有国である。自民党から鳩山民主党政権に変わっても、アメリカの戦争を日本が資金援助する構図はまったく変わらないということだ。