No.919 グラミン銀行の提携

1983年にバングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏が創設したグラミン銀行は、農村部の貧しい人々、とくに女性の自立を支援する「貧者の銀行」として知られ、ユヌス氏は2006年にノーベル平和賞を受賞した。

グラミン銀行の提携

グラミン銀行の特徴は「マイクロクレジット」と呼ばれる少額無担保融資の制度である。国民の半数近くが貧困線以下のバングラデシュで貧困の悪循環から助け出せるようにすることは素晴らしいと思ったし、多国籍企業、グローバル資本による貧困の解消は不可能で、搾取的な営利の追求ではなく貧者を救うのはこのような地道な手段だと、このコラムで取り上げたこともある。

そのグラミン銀行が、ドイツのスポーツ・メーカー、アディダスとジョイント・ベンチャーを計画しているという記事を読んだ。貧しい人々が買える安価な靴を作り、(靴を履かないことで)病気になるのを防ぐことと、その目的は崇高である。

ブランド名は広く知られているアディダスも、この景気後退で厳しい経営を強いられ、減収減益で世界的なリストラを発表している大企業の一社である。グラミン銀行はそのアディダスに、大きな市場を提供するのだ。靴を持っていないのだから、少なくとも数年間は大量に売れることは間違いないだろう。これはもしかするとバングラデシュの人々を救うだけでなく、アディダス救済プロジェクトになるかもしれない。

もちろんバングラデシュの人々がはだしのままでいいとは思わないし、ユヌス氏の革新的な考えは経営者として称賛に値する手腕だということも認める。彼が靴の売上げをグラミン銀行への融資返済計画と関連づけることは間違いないからだ。

グラミン銀行について私が最近知ったのは、その金利である。マイクロファイナンスの金利は年率平均で20%近くだというのだ。中には1桁のローンもあるから20%を超す場合もあるだろう。これは日本におけるノンバンク系金融機関と大差がない。グラミン銀行は日本だったら利息制限法に違反する貸金業者と変わらない存在なのだ。違うところは、バングラデシュの通常の貧困層向け高利貸手の金利が年率100%、200%であることを考えると、ユヌス氏は寛大な貸し手である、ということだ。

いま、ユヌス氏ブランドのマイクロファイナンス機関(MFI)は他の発展途上国にも広がっており、そこでの金利も平均24%から35%だという。調査や人件費などコストがそれなりにかかっているはずだし、3~4%という低金利では、ここまでの世界的な急成長を支えることは不可能であったろう。しかし、ビジネス中心ではなく、ユヌス氏の崇高な目的の達成ということを優先し、低金利で融資を行えば、貧しい人々は靴を買っても、余剰資金を手にできるかもしれない。

アディダスとグラミン銀行の提携でグラミン銀行は称賛を受け、アディダスは市場を得て、バングラデシュのGDPは上がるのは間違いない。そしてこの一見素晴らしいグラミン銀行のスキームでも、高金利に喘ぎながら大企業の利益に貢献する貧困層、という皮肉な構図は変わらないのである。