2006年、北海道の夕張市が財政破綻した。炭鉱の街として栄えた夕張だが、エネルギー源が石炭から石油にシフトし、炭鉱が閉鎖されて人口が激減して歳入が減ったにもかかわらず歳出が増え続けたのが原因だといわれている。
地方自治体の破綻
地方自治体の破綻は日本に限ったことではない。アメリカではカリフォルニア州が2兆円以上の財政赤字を抱えて危機的な状況にある。州政府職員が自宅待機させられたり、州の施設や学校の予算が削られ、失業率は10%を超えて税収も激減している。
またアラバマ州ジェファーソン郡は下水道システムを新しくするために地方債を発行したが、それにリンクされたデリバティブによって金利が跳ね上がり、支払コストが急騰したために破産寸前にある。住民が払う下水道料金も過去10年間で4倍になり、下水道システムに関連した贈収賄で郡議会議長など多くの関係者が刑務所行きとなった。
ジェファーソン郡の赤字がここまで拡大したのは、投資銀行であるJPモルガンの助言に従って固定金利を変動型にしたためだ。サブプライムローンと同じく、投資銀行が不利な資金調達手段を売りつけたために同郡は財政破綻に直面しているのだ。そして金利スワップの手数料として巨額の利益を手にした銀行はFRBによって救済されたというわけである。
ジェファーソン郡は、ギリシャをはじめ世界の多くの国や都市を不安定にしたウォール街のやり口の一例にすぎない。サブプライムで住宅ローンが返済できなくなった個人は、担保(住宅)を手放すことで借金から解放されるが、ジェファーソン郡はこれからもJPモルガンに借金を返し続けなければならない。そして住民は将来も公共料金の値上げ、福祉サービスの削減といった影響を受け、巨額の利益を手にしたJPモルガンだけが安泰なのだ。
金融危機のあと政府の支援を受けたウォール街の大手銀行は実際大きな利益を上げ、アメリカでは今、わずか6行(ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、JPモルガン、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ)が経済を支配しているといっても過言ではない。その中のゴールドマン・サックスを、先月アメリカの証券取引委員会はサブプライムローン関連の証券販売にからみ詐欺罪で提訴した。今後どのような展開になるか興味深いが、同社が長年アメリカの大統領と親密だったことを考えると期待しないほうがいいだろう。
夕張市の破綻は財政投資の失敗と非難する報道もあるが、実際は炭鉱会社が撤退したあと、市は必死に人々の暮らしを支えようとした。企業から買い取った住宅や病院、水道など、住民の生活を維持するため、市の歳出が増えるのはしかたなかったことだと私は思う。
日本政府は今、さまざな公共の整備や運営を民間企業の手に渡そうとしているが、その危険性をよく精査してのことなのだろうか。民間企業は経営が成り立たないとわかれば事業から簡単に手を引く。ウォール街のはげたかだけでなく、それが利益を追い求める民間企業であり、夕張市の破綻がそれを象徴していると思う。