No.923 期待できぬウォール街規制

去る4月、ゴールドマン・サックスがアメリカ証券取引委員会(SEC)に“詐欺”の容疑で提訴された。サブプライム関連の金融商品を、情報を開示せずに客に販売したためだという。このニュースがでた時、オバマ政権はようやくウォール街を本気で規制する気になったのか、それともみせかけなのかという質問をいただいた。

期待できぬウォール街規制

その時点で私は、ウォール街の雄であるゴールドマン・サックスを訴えることで、アメリカ政府は国民に対して何かアクションをとっているようにみせかける単なる策略だと思ったのでそう答えたが、翌週になるとアメリカの格付け会社がギリシャの国債の評価を引き下げたため、投機化した金融市場でギリシャ国債が売り込まれ、ユーロ圏で首脳会議が開かれるなど、ギリシャの財政危機に注目が集まり、ゴールドマン・サックスのニュースは過去のものとなった。5月に入って、小さく、ゴールドマン・サックスはSECと和解に向けた予備交渉にはいったというニュースがでた。

民間の格付け会社の評価がきっかけで国家が財政危機に直面するというのはおかしなことなのだが、膨張した金融市場で実際にそれはよく起きている。そのため以前から、アメリカの格付け会社と投資銀行との関係に疑問を呈する声はささやかれていた。証拠があるわけではないが、格付け会社はウォール街の指示で評価を上下していることは十分考えられる。

さらに格付け会社は株価や債券が上がるか下がるときのタイミングで格付けを変更するため、市場により大きな影響を及ぼすことになる。しかしギリシャの場合、格下げは予期されたことではなかった。欧州中央銀行とIMFがギリシャの債務超過を避けるために1,200億ユーロの支援を打ち出したところだったからだ。

また今年1月には、銀行が顧客のお金を使ってマネー・ゲーム(自己勘定取引)を行なわないようにと、投資銀行と普通の銀行のビジネスを分離させる規制を打ち出したポール・ボルカーの案をオバマ大統領が支持したところ、たちまちアメリカの金融市場が急落した。それとともにこのボルカーの案は立ち消えとなったのだった。

繰り返すが、真実はわからない。しかし金融ハゲタカにとってアメリカ政府を表からも裏からも動かすことは簡単なことのようである。2008年にリーマン・ブラザースが演じたのと同じ役割を、今回は舞台が広がり、EUでギリシャが演じているように見える。

結論は、オバマ政権がゴールドマン・サックスを強く罰することはないだろうし、またこれからも、金融ハゲタカが、サブプライムで行なったような手段で、アメリカだけでなく世界の人々を略奪し続けることをできなくするような規制(グラス・スティーガル法のような)を作ることはないだろう。

ついでに言えば、オバマ大統領の医療改革はアメリカ人の健康を本気で気遣うものにはならないし、また大手製薬会社や大手保険会社には、これからもアメリカ国民を略奪し続けることを許していくだろう。アメリカ政府を動かしているのはオバマ大統領や政治家ではなく、ウォール街や大企業であり、彼らの利益に反する政策をとることはこれからも期待できないということである。