No.926 人間の貪欲さが海洋を戦場に

メキシコ湾の石油掘削基地爆発から2カ月以上経ったが、依然として原油流出が続いている。オバマ大統領はテレビ演説でこの原油流出事故について、「あらゆる力を尽くして戦う」と表明した。

人間の貪欲さが海洋を戦場に

オバマ大統領の「戦う」という言葉がふさわしいのは、メキシコ湾岸沿いに2万人近い湾岸警備隊(州兵)を配備したことからもわかる。しかしこの警備隊が具体的にどのような働きをするのかは発表されていない。原油の流出を止めたり、海岸を浄化する作業を行なうのか、それとも事故現場に地元住民やマスコミを寄せ付けないようにするために配備されたのか。アメリカ連邦航空局が事故現場であるメキシコ湾の上空を閉鎖したのも、人々が小型機に乗って航空写真を撮り、それがインターネットに公開されたくないからではないかという憶測がなされるほど、この事故とその処理は秘密だらけである。

さらにウォールストリートジャーナルによれば、BPはメキシコ湾に原油を分解するCorexit9500という溶剤を大量に投入したという。Corexitはきわめて強い毒性を持ち、イギリスでは使用が禁止されている。これが130万ガロンも使われたということは、メキシコ湾の生き物がどのような状態になっているか想像に難くない。魚だけでなく、海水が蒸発して雨となって降り注げば農作物、そしてそれを食べる人間へも大きな悪影響が及ぼされることは間違いないだろう。

なぜこのようなひどい環境破壊が起きているのか。それはBPという私企業がメキシコ湾での原油の掘削から事故、その後処理まで全てとりしきっており、あたかもメキシコ湾の所有者であるかのように振舞っているためである。

メキシコ湾で起きたこの原油流出事故は私たちに多くのことを考えさせる。その一つはグローバリゼーション、規制緩和、自由競争が人類や地球にいかに大きな影響を及ぼしているかということである。つまり、規制がなければ、利益を追求する企業は利益を求めて世界のどこにでも行き、地球を痛め続けるということだ。

オバマ大統領はこの事故についての会見で、メキシコ湾の自然や生態系、その地に暮らす人々について言及しなかったし、環境に対する史上最悪の犯罪ともいえるこの事故についてBPに説明責任を求めることもなかった。日本でも死者を出した東海村臨界事故があったが、それで経営者が刑務所に入ったとはきいていないし、核燃料の危険性もいつの間にか忘れられた。

BP、そしてアメリカ政府は、あきらかにこの事故が人類に及ぼす重大さを隠そうとしている。それはBPが払うという200億ドルの補償金などでは解決できないことだけは確かだろう。

そしてアメリカ政府がいくら隠そうとしても、メキシコ湾の流出現場で働く作業員の間でベトナムの枯葉剤やイラクの劣化ウランのように、化学物質の毒性の副作用が起こり始めているというニュースがインターネットで出始めている。まさにこれは戦争だ。経済成長と利益のために戦争は欠かせず、人間の貪欲さが海洋を戦場としたのである。