世界保健機関(WHO)が1980年に「天然痘の世界根絶宣言」を行なった時に貢献したオーストラリアの微生物学者フランク・フェナー教授が、人類は後100年以内に絶滅する、と語ったとして話題になった。フェナー教授が絶滅を予測する理由は、人口の爆発的な増加と「制限のない消費」だという。
人類は絶滅の道へ?
「Anthropocene」という新しい時代区分がある。これはAnthropogenic(人間活動による)と、cene(・・世)を組み合わせたもので、産業革命以後の人類の活動を指し、それがもたらす影響が氷河期や彗星の衝突に匹敵するほど大きく、それによって人類は絶滅の道をたどるとフェナー教授は言うのである。95歳になるフェナー教授だけでなく、われわれの多くはこの予測が正しいかどうか、100年後の地球を見ることはないだろう。しかし今、この教授の言葉を真剣に聞き入れる時だ。
世界で起きているさまざまな出来事をみると、かつてインドのマハトマ・ガンジーが言った「人々の必要を満たすものは地球にあるもので十分だが、しかしそれは人々の貪欲さを満たすには足りない」という言葉を思い出す。貪欲さに急激な人口増が加われば、有限の地球の100年後が薔薇色でないことは確かだからだ。
例えば、メキシコ湾で起きた石油事故によって、史上最悪の海洋環境破壊が今も続いている。事故そのものよりも、なぜ海面下3.8キロメートルという深海にある石油を掘る必要があったかを考えなければいけない。安くて豊かな石油という時代はもはや終わりを迎えている。産業革命以後の人類の活動を支えてきた化石燃料は、もはやこんな深海に採りにいかなければ手に入らないということなのである。
私たちは、十分な石油埋蔵量があると信じたいがゆえに、BPによる事故の本質を直視するかわりに、流出し続ける大量の原油に「まだこれだけの石油がある」と安堵する。しかし真実は、有限資源である石油は、もう陸や浅海には新たに掘削する場所がないということなのだ。
8月はハリケーン・シーズンである。2005年、メキシコ湾はカトリーナという大型ハリケーンに襲われニューオリンズの8割が水没した。今、石油が流出し続けるメキシコ湾を大型のハリケーンが襲えば、そして原油をたたえた状態の海水、つまり揮発性の高い燃料が沿岸の都市に強風で振りまかれたら、一体何が起きるだろう。そのようなことが起きるはずはないとアメリカ政府もBPも言うだろうが、深海の石油掘削装置が爆発すること自体、だれも想像していなかったが現実となった。
メキシコ湾をハリケーンが襲い、石油を含んだ海水を浴びた沿岸都市に真夏の太陽が照りつければ、油を含んだ木々は発火材となって炎上するという危険性は拭えない。そうなればフェナー教授の予測よりも早く、人類全体とまではいかなくとも一部の場所で大規模な絶滅が起こることを、われわれが生きているうちに目撃する可能性は十分にある。