No.929 政治家に欠けた「正直さ」

8月6日は広島に原子爆弾が投下された日である。第2次大戦は連合軍によるドレスデン爆撃で始まり、その後、東京大空襲、さらには60もの日本の都市にも焼夷(しょうい)弾が落とされ、広島、長崎への原爆投下につながった。

政治家に欠けた「正直さ」

アメリカにパット・ブキャナンという政治評論家がいる。政治家時代に何度か大統領候補として名前も挙がったので覚えている人もいるだろう。ブキャナン氏は保守派として知られ、日本でいえば『右翼』というレッテルを張られそうなほど、アメリカ優先主義を主張してきた人物である。

彼の新著『Churchill,Hitler,and “The Unnecessary War”(チャーチルとヒトラー、そしてしなくてよかった戦争)』を読んだ。

ブキャナンはこの本で、広島だけでなく全ての人にとって大惨事であった第2次大戦は不要な戦争だった、と結論づけている。

もちろん必要な戦争などないと私も思っているし、その意味では、第1次、第2次大戦どちらも不要な戦争で、各国指導者の外交政策によって避けられたはずの戦争だったと信じている。

チャーチルとフランクリン・ルーズベルトは、ドイツを倒すという考えにとりつかれたあまりに、ヒトラーのドイツと同じか、もっと残酷なスターリンのソ連に、ヨーロッパの半分を手渡した(ソルジェニーツィンは強制収容所から、ルーズベルトとチャーチルをばか者だと呼んだほどだ)。ブキャナンの著書はさまざまな歴史上の事実を検証しつつ、現代の政府指導者もこれと同じ過ちを犯しているのでは、と問いかけている。

今の世界情勢をかんがみると、これは重要な指摘だ。われわれは20世紀に起きたこの悲惨な戦争から、果たして何かを学んだのだろうか。広島、長崎、沖縄をはじめ無数の日本人が犠牲になり、戦場となったヨーロッパでは文明がいかに残酷になれるかの見本のような虐殺が行われた。そのような犠牲を正当化できるどんな理由があるというのか。

べンジャミン・フランクリンは“良い戦争などこれまでなかったし、悪い平和もなかった”と言った。この著書でブキャナン氏は、オバマ大統領のようにあたかも「正しい戦争」があるかのような態度は取らず、極めて正直に歴史を分析している。

ブキャナン氏のすべての主張に私は同意するわけではないが、それでも彼が、正直にそして率直に、近代において、いや、恐らくは人類の歴史において最も残虐な行為が行われた大きな戦争について分析し、それがいかに不要なものであったかを論じていることに感銘を受けた。そしてこの「正直さ」が、いまの政治家に最も欠けている資質ではないかと思う。

核兵器を落とした国の基地を受け入れ、特に沖縄ではいまだに広大な土地が占領され、思いやり予算という名目で日本国民の税金を貢ぎ続ける日本。アメリカが日本を守るという約束などしていないという事実を認める正直な政治家は、日本にはいないのだろうか。それとも首相交代のたびに、われわれの期待は失望に変わるのだろうか。