No.930 カジノ経済に規制を

著書やこのコラムで私が家庭菜園に夢中なことが社外にも広まったためか、農業についての意見を聞かれることが増えてきた。だが私の作る野菜や果物は自分と家族のためで、天候や連作障害などで不作でも大きな問題ではない。所詮家庭菜園では米や小麦などの主食は作れず、どんなに頑張っても自給自足からは程遠いのが現実である。

カジノ経済に規制を

先日、日本の米価が過去最低になり、多くの農家が困っているという話を聞いた。製造業でモノの価格が下がるのは、人々が必要とする以上に企業がモノを生産するからである。その理屈からすると農家の過剰作付けが原因といえるかもしれないが、食料、とくに日本人の主食である米をこれと同じに論じるべきではない。

日本の長い歴史をみても、米は命を支える食料の一つとして実質貨幣的な役割を果たした時期もあった。それなのに民主党政権は農家のために米価を支える買い入れはしないとし、そればかりか日本は外国から年間77万トンも米を輸入している。

私は基本的に自由貿易には反対であり、とくに農産物については国家政策として保護をするべきだと思っている。石油が減耗し、世界的にもグローバルからローカルへと、地産地消の動きが注目されている今こそ農作物の自由化を見直す時期であり、それには政府の介入が不可欠である。なぜなら今や食料が、金融海賊の投機の対象となっているからだ。

その転換期は1991年、ゴールドマン・サックスが小麦をすばらしい投機対象に変えた時だった。もともと農業はウォール街の投資対象ではなかった。ウォール街を儲けさせるのは小麦やパンといったリアルなものではなく、リスクや債務の証券化など、概念的なものだったからだ。

1991年、ゴールドマン・サックスは小麦、コーヒー、畜産物などいくつかの農作物を選び、それぞれの投資価値を計って混ぜ合わせ、「コモディティ・インデックス」というものを作りだした。これによって地球上に住む数十億人の食料である小麦やとうもろこしが金融投資商品となったのである。このインデックスに多くの人がお金を投じれば投じるほど、インデックスは値上がりする。投資家にとってこれほど嬉しいことはないが、問題は小麦の値段も上がり、ひいては食卓に上るパンの価格も上がるということだ。

2008年にはこの投機熱によって世界の食料価格が不安定となり、10億人以上の人が飢餓に直面し、日本でもさまざまな食品の価格が高騰した。現在は小麦価格は一時より下がったものの、あらゆるバブルがそうであるようにいつ再発するかは誰もわからない。しかし必ず繰り返すということだけは確かである。

命の糧である食べ物を投機の対象にした金融商品を必要としているのは誰か。それを売って儲けたい金融機関以外には考えられない。少なくとも、高騰する小麦価格にわくわくするのは一握りの投機家だけだ。このようなばかげた投機が実体経済と人々の生活を破壊する前に、政府はこの狂ったカジノ経済を規制しなければいけない。