No.931 ACTAの危険性

今、インターネットに関連して私が気になっていることがある。「模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:以下 ACTA)」をご存知だろうか。アメリカやEU、カナダ、オーストラリアそして日本などの先進国政府が2006年から作ろうとしている国際法である。

ACTAの危険性

アメリカの友人たちと、このACTAの潜在的な危険性について最近電子メールで意見交換を行っている。ACTAの名称からすると、あたかも中国などからの模倣品や海賊版を取り締まることが目的のような条約だが、その内容はインターネットを規制する方向にもっていこうという意図が含まれるからだ。

私の経営する会社は企業や行政機関などのにコンピュータ・ソフトウェア製品およびサービスを提供している会社である。コンピュータによって飛躍的に人間の処理能力は向上したが、ITにおける真の革命的な出来事はインターネットの普及であると私は思っている。なぜなら資金力のある組織が一方的に情報を流すことができるテレビと違い、資金がなくても、一個人でも、インターネットによって記事や映像を配信することが可能となり、また受け手側も自分のニーズにあったものを選択することができるようになったからだ。

各国の政府は、世界には多様性があることや、政府や大企業が知られたくないことを、多くの国民に効率よく知らせることができる仕組みであるインターネットをコントロールするために「知的財産権」という言葉を使い、国際的な規律を作ろうとしている。先進国政府は秘密裏にこの条約を成立させようとしているが、その内容がインターネットで少しずつもれている。だからこそ私たちが知ることになったのだが、そんなインターネットの取り締まりをしたいのは当然かもしれない。

日本国内の法律を見ると、今年5月、インターネットを政府の規制下に置く「放送法改正」が衆議院を通過した。これは、現在異なる法律で規制されている放送と通信を一元的に規制しようとするというものだが、これによってインターネット上で行われる個人の情報発信が政府の規制下に置かれることになる。放送法改正はACTAのための下準備といえるだろう。

ACTAについては非営利組織である電子フロンティア財団や他の監視団体などが、基本的人権や自由を侵害するとみて透明性を求める活動を行っている。民主的なプロセスによって条約が作られていないことは確かである。そしてACTAが批准されればプロバイダーにはWebサイトの監視が義務付けられ、その結果著作権違反という名の下に人気のあるYouTubeやFlickrのようなサイトでも閉鎖させることができるようになる。

究極は、現在そして未来の革新のために、情報やナレッジを人々が自由に共有すること、それ自体が禁じられるようになるだろう。規制緩和を叫ぶ政府が急に規制を強めたいと言い出したとき、その裏に誰がいるかといえば、今の体制における既得権益者しかない。そしてインターネットは、それくらい彼らにとって脅威だということだ。