No.935 上昇する日本の失業率

日本の失業率は戦後長い間低水準を維持してきた。特に10%前後の高い失業率だった欧米諸国とは対照的で、1980年代に日本的経営がもてはやされたのも一つはこの低い失業率にあったといえるだろう。

上昇する日本の失業率

1990年代に大型企業倒産が起きてから日本の失業率は上昇し始め、特に自民党小泉政権になって規制緩和と構造改革というアメリカ型社会への転換が促進された。それ以降、長期継続雇用を前提に成り立っていた日本の社会は、もはや過去のものとなったのである。

私が初めて日本に来た昭和の時代は、制度において平等な社会を作る仕組みがあったし、事実、貧富の差は世界でもっとも少ない国であった。高度経済成長期の経営者は、国民の生活水準を高めるために「高賃金、高生産性の労働者が武器の国」にすることを目指したのである。

いま、日本経団連は消費税を10%に、法人税については5%引き下げることを声高に政府に要求している。昭和の時代は公然と金持ちを減税したり、大企業の福祉を増やすような政策がとられることはなかった。むしろ高い累進課税率によって大きな貧富の差が出ないよう配慮され、国が様々なインフラ整備を行って最大多数の国民の生活を向上させる再配分が行われていた。それを考えると、今の日本のリーダーたちが社会の安寧よりも自分の利益を高めることだけに夢中になっていることがよくわかるだろう。

昭和の時代のすべてがよかったわけではないが、少なくとも日本では政府が税金を集めて国民に分配し、個よりも全体の利益を優先して特定の産業を保護したり国営事業を行い、それによって国民の多くが自分を中流階級とみなせるような社会が作られていたということを思い出すべきだ。

2007年の総務省統計局の労働力調査によると、15歳以上の労働力人口約5千万人のうち、正社員ではない非正規雇用の労働者の数は約1,700万人でそのうちの約1,300万人は年収200万円未満だという。つまり全体の労働力人口の約25%が、年収200万円以下というのが日本の実情なのだ。

私が経営する会社はIT業界に属するが、この業界は労働者の不足と過剰の両方の面があるといわれている。新興企業であればあるほど安く雇える若い社員が欲しいため、経験を重ねた年配の労働者の条件が悪くなるということだ。私はリストラをしないことを社員に約束をしているが、そのために社員にはいつも変化の激しいこの分野においてコンピュータを使った情報活用の専門家になるようにと言っている。社員が技術進歩に遅れないように勉強をし続けることがわが社の業績を左右するからで、経営者が社員の雇用に責任を持つように、同じように社員にも会社を支える責任の一端を担って欲しいと思うからだ。

昭和時代の日本企業の経営者が完璧であったとは思わない。しかし「共存共栄」の精神が根底にあった当時と、自由競争がもたらした現代の格差社会のどちらがよいかは、誰の目にも明らかではないだろうか。