日本はデフレだと言われている。日銀は、物価上昇率は来年も低水準にとどまると予測し、デフレ脱却のために10月からはゼロ金利政策も復活した。ゼロ金利は、消費者物価の上昇率が1%程度プラスになるまで続けるという。
銀行救済のためのアメリカのインフレ
その一方で、9月に国税庁が発表した民間給与実態統計調査によると、2009年12月末日時点の給与所得者は5,388万人、平均給与は405万9,000円と、前年比でマイナス5.5%、金額で23万7,000円下落した。1949年の調査開始以来、最大の下落である。この数字には利子や配当などは含まれず、働いて生活の糧を得ている勤労者の年収が大幅に減ってきているということであり、多くの勤労者は「生活が苦しくなった」と感じているのが現実だ。
一方、アメリカではインフレが起きている。その理由はマネーサプライを増やしているからで、通貨供給量が市場に出回る製品やサービスの量よりも早く増加すれば当然物価は上昇する。それをインフレと呼ぶのである。言い換えると、ドルの通貨供給量が増えるとドルの価値が下がり、同じ製品を買うためにより多くのドルを払わなければならない。
そうなると困るのは日本の輸出企業である。アメリカへの輸出が難しくなるからだ。そこで日本でも通貨供給量を増やそう、ということになる。これは言い換えると輸出企業のために日本をインフレに向かわせるのと同じことである。
なぜ今アメリカでインフレが起きているのかといえば、金融機関を助けるためだと言っても過言ではない。たとえば、銀行が100万ドルの住宅ローンを貸し付けていた家の価値が、40万ドルに下がれば、銀行は60万ドルの損失になる。もし100%のインフレになれば家の価値は80万ドルとなり、損失は20万ドルに減る。そして200%のスーパーインフレになれば、銀行はその住宅を抵当流れに売り出せば利益がでるだろう。つまり不良債権をかかえる銀行にとって、インフレはまたとない利益を手にする機会なのだ。
現実問題としてもう一つアメリカの銀行に大きな恩恵をもたらしているものがある。それは超低金利政策だ。銀行はゼロに近い超低金利のフェデラルファンドレートでお金を借り、それを貸し出している。住宅ローンであれば平均は4.25%だ。こんなに簡単に利益が得られるビジネスが他にあるだろうか。または超低金利で借りたお金で国債を買えば、やはり多くの利子を手にすることができるのだ。
もちろんこんな特権を持つのはウォールストリートだけで、メインストリート、つまりアメリカの一般国民はインフレ、不況や景気後退、高い失業率で苦しんでいる。
今のアメリカは、まさに銀行を救済するためにインフレが起きている。そして他の国も、日本を含めて、米ドルとの為替を安定させるために、インフレに向かわせようとしているのとしか私には思えない。