No.949 石油減耗に備えろ

灯油やガソリンなどの値上がりが進み、暖房費の不足が懸念される学校もあると言う。もちろんこれは日本だけの状況ではなく、寒波や大雪にみまわれたアメリカでも、ヒーター用の需要が急増したこともあって石油が高騰している。北半球の地域によっては必需品である石油の価格は、生死に関わる問題となりうる。

石油減耗に備えろ

石油価格の高騰理由には、経済大国へと邁進する中国やインドの需要増が挙げられているが、実際は原油の供給そのものが世界全体の価格に影響している。そして日本は、これまでのように中東諸国から安定した供給がくるということが幻想だということに気づくべき出来事が起きている。

チュニジアでは1月、大規模な反政府デモが続いた後、大統領が国外に亡命した。高い失業率、物価高に抗議する国民によって、20年以上にわたる独裁政権が崩壊したのだった。エジプトでも30年にわたるムバラク大統領の独裁政治により拡大した貧富の格差、物価上昇、失業問題に対して国民が立ち上がった。エジプトのデモはチュニジアに触発されたもので、この動きはさらにアルジェリア、ヨルダン、イエメンなどに飛び火している。

石油産出国において、こうした民主化運動が拡大すると次に何が起こるのか。これまで、多くの石油産油国では独裁政権による支配がなされており、それは特権階級が富と権力、そして石油を独占するという形で行われていた。しかしその情勢が大きく変われば、これまで通り日本が資源を輸入し続けられるかどうかはわからなくなる、ということだ。

1970年代に起きた第四次中東戦争では、イスラエルを支持するアメリカへの反米感情の高まりか、サウジアラビアはアメリカ向けに石油輸出を禁じ、原油価格は倍に跳ね上がった。当時のオイルショックで日本がどうなったのか、もはや人々の記憶にはないのかもしれない。だがあの頃よりも日本経済が石油に依存する割合はずっと高くなっていることは事実である。石油供給が逼迫すれば、買いだめをしようにも、数日で食料品店の棚が空になるという状況も起こりうるだろう。

これには中東諸国の独裁政権が国民を抑圧してきたこと以上の理由がある。石油資源の輸出に依存した国の土地や水の状況は悪化し、そのために慢性的な食料不足が起きて暴動のきっかけとなった。石油で支配者層が潤ったとしても、人々が生きていくためには食料生産、農業政策が何よりも基本なのだ。

さらに、これまでも私はずっとピークオイル、石油の減耗に備えるべきだと主張してきたが、政府もメディアも、ピークオイル以降のエネルギー施策を出そうとはせず、中東諸国がこのような変化の中にある今でも、国民にそれを知らせることもしない。日本を含み世界の農業がどれほど石油に支えられれているか、また食料を輸入するためには石油がなければ輸送できないことへの警鐘を鳴らす人もほとんどいないのが現状なのである。

石油に依存する大部分の国家経済のインフラが麻痺し、崩壊するであろうことは避けられないと私は思っている。それは近代の歴史の中で初めての出来事となる。だからこそ、石油崩壊が実際に始まらなければ、われわれはそれを実感することはないのであろう。