今回の原発事故で強く感じたのは、日本とそれ以外の国々の対応に大きな差があったことだ。当初から「放射能汚染が健康に直ちに影響を及ぼすことはない」と日本政府は言い、メディアも繰り返しそれを報道してきたが、その一方、例えばフランスは在日フランス人に関東圏からの避難勧告を出したり、ドイツなど欧州諸国を中心に大使館機能を西日本に移転するなど、福島の原発事故が起きてからの対応には大きな差があった。
背負わされ続けるリスク
しかし、日本政府や東京電力が原発事故があたかも収束しつつあるように振る舞っている間にも事態は深刻化し、冷却水からは平常時の10万倍という異常な放射線量が測定されるまでになってしまった。そして原発から20キロ以内を避難指示圏としている日本政府に対して国際原子力機関(IAEA)が、約40キロ離れた福島県飯舘村で基準を上回る放射線量を観測したとして避難勧告をしても、日本政府は慎重に数値を調べてから決めると、住民をその危険な地域から移動させることを見合わせている。
私が日本国籍を取得はしているがまだアメリカ人的な発想だからとか、私が得ている情報が欧米の報道であるとか、理由はあるかもしれないが、私が日本政府の行動が信じられないのは、政府のしていることは人命軽視にほかならないからだ。私はそれを許せないと思う。
欧米の報道が悲観的で、過剰な反応をしているという見方があるが、危機管理は常に最悪を想定しておかなければ意味がない。『想定外だった』という言葉で済ますには、今回の原発事故はあまりにも多くの犠牲者を出したし、これからも出し続けることになるだろう。
チェルノブイリと福島の違いは、チェルノブイリは核分裂が暴走して臨界状態となって爆発し、それで止まったが、福島はその逆で、原発は故障しても家電製品のようにスイッチをオフにできないために、核燃料は自分でどんどん発熱を続け、それを冷やすために注入した海水に放射性物質が溶けて流れ出していることだ。核の溶解は自己反応的なものだから、反応が止まらない限り誰もそれを止めることはできないのであり、したがって放射能汚染は長期化する。
さらにチェルノブイリよりもひどいのは、福島は原子炉の燃料にMOX燃料を使っている。これはプルトニウムを含み、テロリストがこれを使って核兵器を作るといわれる危険なものだ。福島原発から20キロ圏内に放置された遺体は放射能汚染濃度が高く回収できない状態になっていると報じられたが、プルトニウム原爆を投下された長崎に次いで、福島でも多くの日本人がこの核の犠牲になるとはなんと皮肉なことだろう。
3月30日、東電会長が記者会見し、福島第1原発を廃炉にするという方針をようやく示した。専門家によれば福島第1原発を処分するのにおよそ30年、1兆円はかかるという。お金はさておき、これはつまりこれから30年間、誰かが被爆というリスクを背負いながら原発に関わらなければならないということだ。そんな原発がこの狭い、地震の多い日本の国土に55基もある。原発が安くもクリーンでも安全でもないことを政府が認めないなら、国民から政府にそれを突きつけるしかない。