No.962 日本が後追いするアメリカの実態

去る5月に発表されたアメリカの雇用統計によると、アメリカの失業率は9.1%と2カ月連続で悪化傾向にあったが、経済成長という意味ではカナダ以外のG7諸国と比べると高いGDP成長率を記録した。

日本が後追いするアメリカの実態

2007年にサブプライムローン住宅危機が起きる前まで、アメリカは先進国の中でも低い失業率を自慢していた。危機のあと、経済も雇用も底を打ったとされたが、実際上向きに転じたのは経済だけだった。これにはいくつかの理由が考えられる。

一つは景気回復、つまりアメリカ企業の収益の増加は、労働者あたりのコストを下げることでもたらされた。景気が悪化すると需要が減り、企業の利益も減少する。そのため、経営者は従業員のレイオフや賃金削減によってあたかも業績が回復したかのようにみせることができる。それが一般労働者の生活水準を下げる結果になることは気づいていても、アメリカ企業の取締役会の重要な議題は役員報酬や株主配当を増やすことであって、国民生活の向上ではない。

もう一つはオバマ政権には具体的に職を作り出す雇用計画がない。大恐慌のあとルーズベルト大統領はニューディール政策として公共事業促進局などを作り、政府が直接失業者の大量雇用を行った。金融危機以降、オバマ政権はウォール街に対しては不良資産救済プログラムなどいくつもの直接的な救済策を提供したが、失業者への直接的な対策は何もしなかった。

これに加えて、アメリカの失業悪化を促進したのはそれ以前に行われた労働市場の規制緩和であろう。労働組合を骨抜きにし、労働者を守るための法律を改悪したことだ。労働組合はもともと経営者が不当な解雇を行えないようにする、労働者を守るためのセーフティーネットであった。それが取り払われた今、アメリカは世界でも最も解雇のしやすい国の一つとなったのである。

さらに正社員ではなく契約社員や派遣社員といった、企業側にとっては安く使い捨てのできる仕事が急増した。こうして人件費を削減し、いつでも解雇をできる柔軟な経営のおかげで収益と競争力を高めてきた。

サブプライム危機以降のアメリカ経済の景気回復の実態は、受益者は経営者と株主で、高い失業率という形で労働者を犠牲にしたものだった。大恐慌が世界を襲った時代、日本では松下幸之助が、生産は半減させるが従業員は解雇してはならない、工場は半日勤務にし、あとの時間は在庫の販売に全力を傾注するなどの施策をとって1年以内に売り上げを従来の水準に戻したというが、まさにその逆だ。

日本の昨年の25~29歳の失業率は7.1%、20~24歳は9.1%と、若者の失業率は過去最悪の水準となった。それでも日本経団連会長は、人材の移動が自由化されるTPP(環太平洋連携協定)への参加を促す理由の一つとして、外国からの移住者を奨励すべきだと言ったという。日本の労働者を、さらに安い賃金で働く外国人労働者と競わせようというのだろう。それで日本がますますアメリカのように貧富の格差の大きな社会になっていくことだけは間違いない。