No.963 新日本人に訊け!

このたび飛鳥新社より『新日本人に訊け!』という本が出版された。これは、漫画家でありながら社会評論活動を行う小林 よしのり氏が、私を含めて6名の新しい日本人、つまり日本に新たに帰化した人との対談を集めたものである。

新日本人に訊け!

小林氏と私は、ある部分では非常に近い価値観を持ち、またある部分ではお互いの主張がかみ合わないこともあった。このような意見の相違は自由な国家においては当然かつ自然なことであり、逆に反対意見を交換しあうことで敵対するよりも相手をより深く理解できる場合が多い。小林氏との対談もまさにそのケースで、自分の知らなかった世界観や歴史史観を知ることで新たな学びを得た対談であった。

私は企業経営をしながら、この日本社会に対して国籍を取得する以前からさまざまな提言を行ってきた。この対談でも聞かれたが、私は1969年に来日してからずっと日本で暮らしてきたものの、特に日本国籍をとりたいとか、とろうという気持ちにはならなかった。なぜなら永住権があったため、その違いは選挙で投票権があるかどうかの違いしかなかったからだ。選挙で自分が投じる1票よりも、たとえばこのようなコラムを書くことで、またはどこかで講演をして話をきいてもらうことで、より多くの人々に日本の社会や国家のあり方を考えてもらう触媒になれると信じていたからだ。

しかし私の論評がアメリカ批判になるにつれ、アメリカ政府からアメリカ入国時に不当な検査を受けるようになった。反政府者というレッテルを貼られていることを知り、また、アメリカ政府の、日本や世界のさまざまな国に対する政策に、アメリカ国民として加担したくないと心から思うようになり、アメリカの国籍を捨てたくなった。そうして、日本の国籍をいただく決意をしたのである。

相変わらずアメリカに追従する日本政府、自分のことしか考えない政治家の行動をみると「新日本人」として実に情けない気持ちになる。しかし歴史を振り返って、または世界のどの国の歴史をみても、真に国民のことを考えた政府や政治家が活躍する国家などあっただろうか。そのような政治家は暗殺されたり、泡沫として揶揄されたり、ただたんに無視され、決して中心となることはできなかったのが真実ではないか。

いま、日本という国は、地震に津波、そして福島での原発事故という最悪の事態に直面している。このコラムの読者の方から、日本から、どこか海外へ避難しようとは思わないのか、という質問をいただいた。そのとき、私はこの国から出るつもりはないと返事をした。日本は長い歴史を通して何度も地震や津波、その他の自然災害を乗り越えてきたのだ。だからこれからもそれを受け入れていくしかない。一方の原発は人災であり、私の住む京都から90キロのところにも原発がある。できる限りの注意をして生活をするつもりだ。そして原発事故をきっかけに、私だけでなく多くの日本人が自然と向き合う日本本来の生活に戻っていって欲しいと、より強く願うようになった。それが日本という国家が存続していく唯一の方法だとさえ思っている。

この『新日本人に訊け!』では、私のように自らの意志で日本人となった人々が、それぞれに日本への思いを語っている。日本を再生する必要に迫られている今、生まれついて日本人だった方々が新たに日本人となった者の思いに触れることは、日本人として、新たな自信と希望につながるかもしれない。ご一読いただけると幸いである。

『新日本人に訊け!』
2011年5月初版発行/飛鳥新社 小林よしのり(著)