先月、関西の鉄道が夏季の間に電車の間引き運転を実施するという報道があった。東北や東京電力管内ではすでに節電が実施されているが、エネルギーの節約という意味では、電車の本数を減らすことは愚かな対策だと私は思う。
エネルギー消費を減らすために
それはむしろ政治的に腐敗しているといったほうが適切かもしれない。なぜなら鉄道輸送に使われるエネルギーは、自動車輸送の12分の1、バスと比べても3分の1または4分の1程度しかならないからだ。鉄道よりも少ないエネルギーを使う輸送手段は、徒歩や自転車である。つまり大勢の人が利用する地下鉄や電車の本数を間引くことは、よりエネルギー消費の高い自動車を使うことを奨励しかねない。
本当にエネルギー消費量を減らしたいのであれば、例えば、自動車の駐車禁止を今よりも厳しく取り締まるようにするべきだ。そして違法駐車が占領している道路を自転車専用道路にする。または、路面電車を復活させる。アメリカでも1930年代は各都市に路面電車システムがあり、自動車の代わりに多くの人の通勤の足となっていた。いまは跡形もなく舗装され、交通はすべて自動車にとってかわり、アメリカは自動車なしには生活のしにくい、石油にどっぷり依存する社会となってしまった。世界全体の自動車の石油消費量は約3分の1で、残りは暖房や電力発電に使われているが、アメリカにおいては自動車が石油の3分の2を消費している。
さらに、自動車の制限速度を現在の半分にする。人間の活動に必要なエネルギーは活動速度の二乗で変化するため、速度が2倍になれば必要なエネルギーは4倍になるが、速度を半分にすれば必要なエネルギーは4分の1になる。高速道路は100キロの制限速度を半分の50キロに、一般道路の60キロや40キロという規制は、30キロまたは20キロにする。これによって単純計算で現在の4分の3のガソリン消費を節約することができるだろう。
制限速度の抑制は排気ガスによる公害も減らし、そんな速度なら電車に乗ろうという人も増えるだろう。交通事故の減少にもなり、なによりも交通量が減って夏の暑さが少しでも解消されるかもしれない。エアコンや自動車の熱が減れば都市部の温度はかなり下がるはずである。
日本の最終エネルギー消費の変遷を調べると、1973年のオイルショックから2008年まで、産業部門では省エネがすすみエネルギー消費は増えていない。一方、輸送部門は約2倍に、民生部門にいたっては2.5倍も増加した。これは快適さや利便性を求めるライフスタイルの普及がもたらした結果であり、利便性を求めた国民がエネルギー消費を増大させたといえる。扇風機なら30ワットの電力消費は、クーラーになるとその10倍を必要とするのだ。
自動車の制限速度を下げるなど、実行不可能だというかもしれない。しかし実際に世界のエネルギーが減少し、またはエネルギー価格が高騰すれば、いずれにしても日本国民が高エネルギーに支えられた今の快適な生活を維持することはできなくなる。それを頭にいれて、われわれはこれからの生き方を考えていかなければいけない。