No.967 生き方を見直す契機に

原発災害が起きなかったとしてもいずれ日本は省エネを真剣に考え、実行していかなければならなかったと思うが、3月11日以降、それは現実として厳しい形で日本にふりかかった。われわれはエネルギーの視点からも、あらためて生き方を見直す機会を与えられたのではないだろうか。

生き方を見直す契機に

現在日本で消費される電力は火力発電に大きく頼っており、今後その傾向は、安定した代替エネルギーが見つからない限りさらに強まっていく。火力発電の燃料は石炭、石油、天然ガスで、特に石油価格は国際的に高騰しており、被災地の復興を優先するためにも被災地外の地域は電力の消費を減らして火力発電への依存度を抑え、節電や省エネを心がけていくべきだと思う。

個人だけでなく企業も同じだ。しかし企業の場合、節電をするために消費量の多い産業を中国や東南アジアなどに移転すればよいということでは、もちろんない。生産拠点をはじめとする産業の基盤を日本国外へ移すことは、日本人の雇用を減らすことである。仕事がない、失業率が高い、ということは国家に何をもたらすのか、いまのアメリカが如実に語っている。

アメリカは4月から失業率が増加し、6月は9.2%であった。農業部門や公的機関の雇用が減少し、特に州や地方自治体では10万人以上の雇用削減を行っている。州政府は1兆1900億ドル、地方自治体は1兆7400億ドルもの財政赤字を抱えているからだ。アメリカの株式市場は2009年3月に底を打ったにもかかわらず、実体経済の指標であるこの失業率からみても回復はほど遠い。それでもオバマ政権は、職の創出より社会保障のお金をいくらウォール街に移せるか、富裕層のためにどれだけ減税ができるかで忙しい。

国を動かしているのは一部の政治家や資本家などの富裕層かもしれない。しかし実体経済を支えているのは一般国民であり、仕事をして収入を得て、所得の大部分をさまざまな製品や食べ物、その他サービスの購入にあてている人たちなのだ。しかしアメリカでは何年も前から製造業だけでなくホワイトカラーや専門職の仕事も国外移転を進めている。

豊富で安いエネルギーに支えられた過去150年から200年の間に、製品の製造や流通は人間の労働力を必要とする労働集約型から、エネルギー集約型、資本集約型となった。アメリカや日本のような工業国には安価な製品が大量に提供されたが、その他の国は貧困が進んだ。しかしここにきて先進国でも、高い失業率と富の格差という現象となって国家をむしばみ始めた。

この解決策は財界の好みそうな産業の海外移転などではなく、労働集約型の製品製造や流通スタイルにもどることだ。同時に、資本家をもうけさせることだけが目的で、国民の健康や幸福に寄与しないような製品をあまり作らないようにすることだろう。もちろん資源の減耗が進めば、いやがおうでもそのような時代がくる。だがまずはそういった製品を買わないようにすることも省エネであり、また生き方を見直すことにもつながるだろう。