No.968 既に破綻している国、米国

債務不履行となれば債権国に大きな影響が及ぶだけでなく、世界経済にも危機的変化が起きると警告されてきたアメリカは、期限ぎりぎりになって議会が債務不履行を回避することで合意したという。しかし回避されたといっても、アメリカという国がすでに財政的に破綻していることは変わらない現実である。

既に破綻している国、米国

経済活動がいわゆる「グローバル」に行われる時代、日本企業もグローバルにならなければいけないといわれる一方で、実はその「グローバル」な経済活動そのものが、アメリカ国家を債務不履行になるほどの借金まみれにしている元凶でもある。

一例を挙げると、アメリカのマイクロソフト社は6月末に終了した四半期の純収益が前年同期比48%増の45億2千万ドルだったことを発表した。アメリカ経済が低迷するなかでこれは素晴らしい業績だ。さすがグローバル企業で、さぞかしアメリカ政府の法人税税収に貢献しているはずである。しかし増益の理由は、製品の売り上げが好調だっただけではなく、アイルランドやシンガポール、プエルトリコなど低税率国での利益増がその要因にある。その結果、アメリカ政府に支払った税金は前年比で10億ドル以上減少し、4億4500万ドルだったというのだ。

海外における同社の税引き前利益は2006年から3倍に増えて192億ドルだったが、アメリカ国内では逆に減少している。全利益の68%が海外からもたらされ、アメリカ政府に同社が支払う法人税率は06年には31%だったのが17.5%にまで減少した。アメリカで35%という法人税を払っている大企業はほとんどないとさえいわれているから、政府が赤字になるのも当然であろう。

日本企業でも安価な労働力を求めて海外へ製造拠点を移したところもあり、それによって失業が増えている。だからこそ、原発が停止されれば海外へ移転するという脅し文句を財界は使うのかもしれない。アメリカの場合は、さらにそれに加えて企業がタックスヘイブン(租税回避地域)において節税をすることが合法となっており、それによる税収の損失は膨大なものとなっているのだ。

しかしそれが節税として合法なやり方である限り、企業経営者は株主のために租税回避地域でビジネスをするのは当然のことだろう。だからこそ、アメリカ政府が真に財政赤字に取り組むつもりがあるならまずはこの抜け穴に課税できるよう法律を変えるべきなのである。そうすれば財政赤字も縮小し、貧しい人々の福祉を削減する必要もなくなる。

しかしアメリカの政治家はそれをすることができない。弱者への増税はできても、大企業や富裕層への増税は命取りになる。なぜなら政治家にとって大切なのは政治献金をくれる彼らであり、またこうしたことをテレビや新聞が報じないのも広告主として企業がメディアもコントロールしているためである。

債務不履行を回避したといっても、海外からの借金なしには国家運営ができないアメリカがいずれ破綻することは目に見えている。金持ちによって略奪されてしまった国、それが今のアメリカなのである。