借金まみれのアメリカ政府がさらに借金ができるように上限を引き上げた。しかしそれが財政赤字の解決にならないことは誰の目にもあきらかだ。オバマ大統領が本当にやりたいのは「このままだとアメリカはたいへんなことになる」という論調を広め、アメリカの社会保障費やメディケアなどを削減するしかないという雰囲気を作りだすことである。
茶番の米政治の裏側で
アメリカの財政赤字はGDPの10%にまで増大している。しかし2008年の初めにアメリカ議会の予算委員会は、09年の赤字はGDPの1.4%になると予測していた。それが急速に拡大したのは、08年に起きたサブプライムという住宅バブルの崩壊にほかならない。オバマ大統領はこの事実を隠している。
サブプライム問題は、日本のバブル期にノンバンクや銀行がお金を貸しまくり、それが焦げ付いたのと似ている。日本の銀行も公的資金を使って救済されたが、アメリカの場合、救済額は桁違いだった。今年7月、アメリカ会計検査院(GAO)がアメリカ連邦準備理事会(FRB)に監査を行った結果、07年12月から10年7月21日までに金融機関に行った融資の総額が16兆1千億ドルであったというのである。
よく数字をみてほしい。問題になっているアメリカ政府の赤字は約1兆5千億ドルだ。アメリカのGDPは14兆1200億ドルしかない。しかしFRBが金融機関に融資したのは16兆ドル、アメリカのGDPを上回る。これを考えたら、1兆5千億ドルの赤字についてメディアがあたかも世界恐慌の前ぶれのように議論するのはばかげている。
サブプライムローンは、金融機関が貪欲に短期的な利益を追求し、焦げ付くに決まっているものを「サブプライム」などと呼んで住宅ローンに投機マネーを振り向けたものだ。
何もないところから「お金を創造」することのできる銀行が、返済能力のない人にまでお金を貸し出して、安い住宅を買わせ、買った側もその家の価値が上がったら売って借金を返して、残ったお金でまた家を買ってそれが値上がりしたら売って…という幻想で、もちろんバブルははじけ、人々は家を失い、銀行は不良債権が膨らんだ。
その銀行に、アメリカ政府は16兆ドルを差し上げた。これについてはアメリカ政府は議論をせず、メディアはさほどとりあげもしない。
そしてアメリカ政府は、この勢いでさらに弱者への福祉を削減しようとしている。16兆ドルものお金を金融機関に融資したことを、ウォール街から多額の政治献金をもらっているオバマ大統領が秘密にしたいのは当然だし、財界に都合の悪いことは報じないメディアが黙っているのもいつものことだからだ。
アメリカの債務上限の引き上げで与野党がもめたとか合意したとか、それらは念入りにつくられた政治的茶番劇にすぎない。これはアメリカの真の問題ではなく、政治家を操るウォール街がこの危機を利用してアメリカの社会福祉をさらに削減するためのものである。そしていつもどおり、そのもくろみはうまくいくのだろう。