No.972 弱者切り捨ての裏側で

アメリカのインスティチュート・フォー・ポリシー・スタディというシンクタンクが先月まとめた調査で、企業の最高経営責任者(CEO)が昨年手にした報酬に関する報告があった。アメリカの企業でもっとも報酬の多かったCEO100人のうち25人は、その会社がアメリカ政府に納めた連邦所得税よりも多くの報酬を得ていたというのである。さらにこうした企業の多くは、支払った税金よりも多くのお金をロビー活動に費やしていた。

弱者切り捨ての裏側で

企業の収益が上昇し、それによってCEOの報酬が増えているのであればまだ納得がいく。しかしアメリカの平均的な労働者の給与は横ばい、失業率はまったく改善されていないのが現実だ。それなのに25人のCEOの受け取った昨年の平均報酬は1670万ドル、80円換算でも13億円を超えていた。一例を挙げるとGE社のCEOジェム・イムメルト氏の2010年の報酬は1520万ドル(12億1600万円)だった。

アメリカ政府は深刻な財政赤字を抱えている。8月には政府債務の上限引き上げ法が成立し、米国債の債務不履行が回避されたばかりで、格付け会社は米国債の格付けを引き下げ、米ドルの価値も下がり、経済は悪化している。政府は弱者向けの福祉を切り捨てたり、教育やインフラ設備の予算を減らすなど支出削減には熱心である。しかし財政赤字を解決するためもっとも確実で手早く、公平な方法の一つは税率を上げることなのだ。

アメリカの法人税率は35%と世界でももっとも高いが、実際にはほとんどの会社は控除や抜け穴を利用しており、実効税率はずっと低い。例えばGE社は2010年、ほとんど連邦税は払っていない。複雑な、そして法律で認められている税法のおかげで、アメリカ企業が払う税金は1950年代には全連邦の税収の30%であったものが、いまや9%程度にまで減少した。これを可能にしたのがロビイスト、弁護士たちの活躍であり、だから企業は法外な費用をだして彼らを雇っている。

ロビー活動のおかげでさまざまな控除や租税回避策が作られ、税率の低い海外現地法人に利益を移動し、税金を最小に抑えている。前述のGE社の場合、ほとんど税金を払ってないのは、金融危機により金融サービス部門が損失をこうむったためだと同社は説明する。しかしGE社はバミューダやシンガポールといった低税率国で納税申告を行うことで、利益を留保しているのである。

株主は、たとえ国家の収益が減ろうともこうした合法的な節税によって、株価収益が上がることを歓迎する。しかし企業が本業の成長ではなく会計手法で利益を出しているとしたら、そのような企業の健全で長期的な未来は疑わしい。

10年前、アメリカで第7位の大企業だったエンロンが破綻した。将来見込まれる売り上げを現在の収益として換算できる会計制度を利用して収益を膨らませ、高額のボーナスを払い、政治家たちにも利益を分配していた。エンロン、タイコ、ワールドコムと、本業以外で増えた収益とCEOが受け取る膨大な報酬は、その次に大きな問題が起きる兆候といえるだろう。