No.973 命より経済優先させる国、日本

去る8月、円高に歯止めをかけるために政府は約4兆5千億円もの円を売り、ドルを買ったために、日本の外貨準備高は大幅に増加して1兆2185億ドル(約93兆4100億円)となった。さらに8月末、政府は円高に対応するため、1000億ドル(約7兆6000億円)規模の円高対応緊急基金を創設すると発表した。

命より経済優先させる国、日本

基金は1年間の時限措置で、外国為替資金特別会計がドル買い介入によって得た1000億ドルの資金を活用し、日本企業が持つ円資金の外貨への転換、つまり日本企業によるM&Aや資源確保などを促すことによって円資金をドルに転換するためのものだという。円安にするために買いまくったドルがこの基金の資金源であり、これ以外のドル資金は、これまでどおり米国債の購入などに充てられるのであろう。

以前から私は、日本の貿易黒字の累計と外貨準備高の時系列データを分析し、日本が世界から稼いだ貿易黒字は、そのほとんどが外貨準備高に向けられていると指摘してきた。日本政府は民間企業が自動車や家電製品を作って稼いだ貿易黒字を、米国債購入の形でアメリカに還元している。結局、日本は好きなだけ稼ぐことはできても、その貯蓄は主人であるアメリカ政府への融資(米国債)という形でしか保持できない。さらにそれを促進させるために、国民に諮ることもなく7兆6000億円ものお金を使うのがこの基金なのである。

この大胆なお金の使い方と比べて、日本政府は一般の自国民のためにどのような対応をしているのかを見てみたい。先日、英インディペンデント紙に掲載された記事にそれがよく描かれていた。3月の地震と津波で、家も仕事も、命以外のほとんどのものを失い、いまも避難施設に暮らして生き残った同僚たちと再建の日を待ち続ける漁師の人たち。原発事故による高濃度放射能のために、生活の糧である畑も牛も残して家を離れなければならなくなった人に、補償金として渡されたのは、東電から100万円、政府から35万円だという現実である。

もはや原子炉は安定し、避難区域以外の放射線量は安全だというのが政府の見解だというが、チェルノブイリで放射線が遺伝子などに与える影響を研究している学者をはじめ、避難区域外であっても福島県の子供たちを避難させるべきだと言う人も多い。なぜなら政府の「ただちに健康に影響はない」という言葉は、実は長期的なことを論じる十分なデータはないというのが実情だからだ。7兆円あれば、長期的な危険性を排除するために政府が子供たちを避難させることは不可能ではない。しかしこれほど人命に関わる問題が実際に起きているにもかかわらず、輸出企業に対する保護とは対照的なのが、日本政府の対応なのである。

国民の生命を守ることよりも優先される経済、それが自由放任資本主義の姿であり、そこでもっとも価値があるのは利益であり、お金なのである。そしてこれは日本がもはや主人であるアメリカ同様、一部の人々にのっとられてしまったことを表している。