No.974 農業再興のチャンス

農林水産省は去る9月、若い世代の就農を支援する交付金制度を創設する方針を明らかにした。対象は39歳以下で、1人当たり受け取る金額は平均100万円超となり、2012年度の概算要求額は数十億円規模になるという。

農業再興のチャンス

日本の食料自給率は39%と低いがその理由の一つは畜産物の飼料穀物を大量に輸入していることだ。したがって肉食を控え菜食中心に変えればそれだけで食料自給率の数字は上がるだろう。飼料穀物の輸入が減ればエネルギー資源の大きな節約にもなるし、生産から加工、輸送から調理までを考えるとより大きな影響が出ることは間違いない。電力にしても食料にしても、現状の消費量を維持するために資源を使い、環境を壊し続けるのはあまりにも愚かである。

農業従事者が減少する日本で、若者の参入を促して農業を活性化させることは素晴らしい考えだ。わが社でもわずかだが補助金を出して社員に家庭菜園を勧めている。しかし政府の目的が「農地集約や競争力のある農家の育成を加速させる」というのは注意が必要だと思う。

日本の狭い土地を効率よく使うことには大賛成である。農作物を作るためには、土地、エネルギー、労働力、そして資本が必要で、日本には十分な資本と労働力があるが、わずかしかないのが土地とエネルギーだからだ。だからここで農地を集約して、多くの資本を必要とする大規模農業を目指すべきではない。

大規模農業は大型機械や化学肥料、農薬を使い、それらは化石燃料を大量に使用する。私は家庭菜園をしているが、機械を使うと土が硬くなり、土に住む生き物、ひいては土の栄養分を殺すと思っている。農薬や化学肥料に至っては、食糧危機を克服するというふれこみでインドや東南アジアで行われた「緑の革命」をみるとよい。化学肥料や農薬は結果的に土地を傷め、収穫は年ごとに減少した。農薬による自然破壊や健康被害もおき、時がたつにつれてそれは伝統的な農業における食料連鎖のコントロールを農民の手から多国籍企業の手に移すプロジェクトにすぎなかったことが明らかになっているからだ。

国土の狭い日本に必要なのは小規模の、労働集約型の有機農業だと私は思う。貴重な土地を大切に扱い、耕して栄養を与え、そこで作物を作っていく。それを実現するためには300万人を超す失業者という労働力がある。職を求める失業者を、政府が最低賃金(またはそれ以上)で雇い、農業8時間、週5日、年間2000時間雇用しても1年間の費用は約4兆円である。これには消費税の税収の一部を充てればよい。

食料問題は世界的に今後ますます深刻になることは間違いない。アメリカ、ロシア、インド、オーストラリア、その他の食料輸出国では、すでに食料の輸出を減らし始めているし、世界人口が増えるにつれ、食料供給はさらに減少する。就農人口を増やすだけでなく、どのような農業をするべきかも合わせて考える必要があると思う。