9月にニューヨークで始まったウォールストリート占拠運動は、財政危機が深刻化するヨーロッパ、そしてアジアやオーストラリアなど、世界の82カ国に広がり、10月15日には、「格差をなくせ」「原発反対」「TPP反対」など、東京でも多様な主張がなされた。
1%の金持ちと99%のわれわれ
金持ちは1%、われわれは99%。その99%の人々がもっとよい暮らしができるような社会を、というウォールストリート占拠運動のメッセージはシンプルだが明瞭だ。非暴力的な運動に徹しているが、ローマなどではデモの一部が暴徒化してけが人もでた。イタリアでは25歳以下の失業率が27.6%、スペインでは46.2%と、多くの若者が職につくことができないのが現状だ。日本でも24歳以下の失業率は全年齢層の中で7.7%ともっとも高いが、ヨーロッパの若者の失業率はさらに深刻である。
金融の規制緩和、自由貿易、民営化にグローバル化と、欧米や日本政府が推し進めてきた政策がもたらしたのが、この「1%の金持ちと99%のわれわれ」という貧富の格差社会だ。1%の人々が残りの国民に戦争を仕掛けているのと同じようなものだが、日々の生活に忙しい人はそれに気づくこともない。
日本において格差が進んだ理由の一つは、過去40年の間に変わってきた税制度である。昭和の時代の税制では、日本は持てる者にはより多くの税負担を求める累進性が徹底されていた。高度経済成長を遂げた1960年代、最低税率は10%、最高税率は75%で刻みは19階層だったが、80年代になり、竹下内閣は最高税率を50%、刻みを5階層にした。90年代になりさらに37%、刻みは4階層と、最高税率は60年代の半分以下になった。金持ちの税金を消費税、つまり99%の国民に付け替えたのである。消費税の支払いからは誰も逃れられないのだから、消費税では格差が是正されない。
累進課税のメリットはまた、民主主義を守ることでもある。世論に影響を与えるメディアや、法の策定、施行を行う政治家や官僚を買収するための資金を金持ちから税金によって奪えば、金持ちは民主主義のプロセスを腐敗させることはできなくなるだろう。
さらに今、日本政府は自由貿易という名の下にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉に参加しようとしている。これは参加国の間で関税を一切なくし、関税以外でも経済のあらゆる国境を取り払おうという協定である。しかしこのアメリカが推進する自由貿易こそ、日本だけでなくアメリカの99%の国民をも不幸にする政策なのだ。自由貿易で益するのは巨大企業、多国籍企業だけで、国民ではない。だからこそ自由貿易を推進してきたアメリカでウォールストリート占拠運動が起きているのである。
TPPに参加すれば、関税だけでなく非関税障壁も撤廃することになる。それは日本に参入したいアメリカ企業にとって邪魔な日本の法律や規則、それらをアメリカ企業の都合で廃止、改悪されてしまうということだ。TPPとは1%のために99%が犠牲になる社会をつくるための仕組み以外のなにものでもないということを、日本国民は早く気づかなければいけない。