今年8月、政府は円高を阻止するために4.5兆円の為替介入を行った。そして10月31日、政府は再び約8兆円の介入を行ったという。
すべては輸出企業のため
日本の純輸出(輸出から輸入を引いた額)は、日本のGDPの1%にすぎない。それは過去10年間もそうだったし、実際政府がその統計を発表するようになった1955年からずっと1%程度である。言い換えると、日本は輸出主導型経済ではない。日本経済の約57%は民間消費、16%は公共消費、26%は資本投資、そして1%が純輸出という、国内経済から成り立っている国なのだ。
円高は円の価値が高くなることで、日本人や日本企業の所得や預金、その他資産価値が海外からみて高くなることである。カロリーで6割を輸入食料に頼っている食料の価格も下がり、ほとんどが輸入である石油などのエネルギー資源も安くなる。例外は輸出企業だ。つまり日本政府が介入をして円の価値を下げるということは、日本の99%の経済を犠牲にして1%の輸出企業を助けるということなのである。
日本政府が対抗しようとしている投機筋は、外国為替市場で1日に約90兆円の円を売買している。単純計算すると1ヶ月で2700兆円が動いており、それに対して4.5兆円や8兆円を投入したところでどれだけの影響を与えられるというのか。政府の介入は愚かな行為としか私には思えない。
投機を止めさせる方法はもちろんある。円の売買に1%課税すればよい。円の買い手に0.5%、売り手に0.5%の税金を課す。日本政府は私たちが食べ物や着るもの、その他生活必需品のすべてに5%の税金(消費税)を課しているのだから通貨売買に1%がかけられないはずはない。投機目的に行われる国際通貨取引への課税はトービン税と呼ばれ、これによって投機はなくせる。なぜなら投機家は1%に満たない利益を求めて売買しているからだ。もし円への投機が止まらなくても、これで政府の今の税収をはるかに上回る税金が徴収できる。90兆円の1%を30日で掛けて、その12ヶ月分は324兆円、日本の昨年の国税、地方税の合計76兆円を大きく上回る。
日本政府は、福島原発の事故のあと20キロ圏内に住む約8万人の国民に、家や農地、仕事を捨てて避難するよう命じた。20キロ圏内どころかもっと遠くに住む人も、同じように放射能を恐れて家や家畜を捨てて避難し、仕事を失った。私は日本政府がこうした人々に対していくら補償したのか、その総額を調べたが、原発事故から半年以上たっても数字を見つけることはできなかった。一般国民への補償はしなくとも、輸出企業のためには即決で12兆円を投じられるのが日本の政府なのだ。そして福島第1原発では今も核分裂の可能性もあるなかで多くの作業員が働いている。
円高について、安住財務相は、納得するまで介入をすると言い、メディアは日本経済を立て直すために円高に歯止めをかけておかないと、自動車や電機など輸出産業の業績悪化を招き、景気も腰折れする懸念が強まると煽る。しかしそれは真実ではない。すべては1%の輸出企業のためであり、そして99%の国民が犠牲となるのである。