円高により、工場などの生産拠点を海外に移す企業が増えているという。しかし多国籍企業が海外へ業務拠点を移転することは今に始まったことではなく、経済のグローバル化に伴い、アメリカでは20年以上前から、日本でもここ10年くらい前から増加していた。
得た利益その場に投資を
雇用を先進国から貧しい国へ移すのは、人件費削減という意味で経営者にとっては以前から魅力的で、経済的に正当な選択だったのだ。したがってすでに海外生産を行っている企業が、円高が続けばさらに海外へ移転するとして政府に円売り介入を求めるのもおかしな話である。
日本の資源を考えると、他の国に輸出するための製品を日本で作ることには限界がある。もし日本企業が海外で製品を作るなら、それを販売する場所で、その製品を買う国民を雇って行い、得た利益はその場所に投資するべきだと私は思う。これを奨励するためには、各国政府はそれぞれの国民に必要ではない製品の関税を高くし、必要なものの関税を低くするようにするとよいだろう。あらゆる関税を際限なく削減または撤廃しようとするTPPのような自由貿易協定は、まさにこの逆の結果をもたらすだろう。
もう一つ私が提案したいことがある。例えば企業がアメリカに製品を輸出して販売すると利益はドルで手にする。しかしドルは日本では使えないので、企業は政府(日銀)に持っていき、円と交換する。これによって輸出企業は価値が上がっている円を手にし、一方で政府は価値が下がりつつあるドルを保有することになる。円は対ドルでもユーロでも近年上昇しており、試算によると年率約8%上がっている。このように円と価値が下がる通貨を交換することは、輸出企業のための補助金ともいえるため、政府は無制限に円と外貨を交換することは止めるべきである。
輸入のために使うドルやユーロは円と交換する必要はあるが、稼いだドルを政府が無制限に円と交換しなくなれば、企業は輸出で手にする通貨の価値が下がる問題を納税者に転嫁せずに自分自身で対処するようになるだろう。つまり利益をそれを得た場所に投資すれば、為替による損失を受けることはなくなるのだ。
為替相場が変動する理由は、投機家が通貨売買というばくちを行うからであり、企業が製品をどこで作るかは問題ではない。一日に世界で476兆円もの通貨売買が行われ、このうち円の売買は90兆円にものぼる。通貨売買はわずかな変動に対して行われるから、為替レートは77.83842….円というような細かい単位ででてくるのだ。このようなばくちは日本政府の介入で是正できることではなく、トービン税の導入で通貨投機を止めさせるしかない。
雇用の減少は自動化などの技術進歩によっても起きている。しかし製造拠点をその製品を販売する場所に移し、そこで製品を買う人を雇用して製造し、得た利益をその土地に投資、還元するようになれば、技術進歩が雇用にもたらした影響を減らすことができるだろう。また企業がその地域の雇用や経済に貢献すれば、そのような企業は日本でも外国でも愛され、尊敬される企業となりえるだろう。