TPP(環太平洋連携協定)が話題になり始めた時から、日本の参加に私は反対であったし、最近では一般国民からも疑問や不安の声が数多く出ている。それにもかかわらず、野田政権は国民向け説明会を開くなどTPP推進に必死である。
TPPの柱自由貿易協定
そのTPPの柱である自由貿易協定(FTA)について調べてみた。FTAは2国間以上で結ばれる協定で、物品の関税やその他通商上の障壁を取り除くための国際協定であり、このFTAこそが実に大きな問題なのだ。これは、企業が世界を支配し始めた、イギリスの東インド会社の時代にさかのぼるかもしれない。しかし2010年、アメリカの最高裁が企業に人間と同じ人格を認めたことで、さらに企業は強靭になった。裁判所から憲法が保障する「言論の自由」を与えられた企業は、政治的発言、政治的関与が合法的に認められたのである。これまでもウォール街の金融機関や石油会社、その他さまざまな企業は、ロビイストを使い政策に大きな影響を与えていた。それがさらに直接政治に関わってくるようになったのである。
アメリカではレーガン大統領の80年代からその準備は進んでいた。規制緩和が進み独禁法も緩和され、アメリカのテレビ局、映画、音楽産業はわずか5つの巨大グループに支配されるようになったからである。巨大資本がメディアを独占しているのだから大企業批判などできるはずはなく、思うままに報道を操作し、アメリカ国民の心は簡単に操作できるようになった。
80年代には数百人だったロビイストは、09年には4万人にも増えた。もちろんロビー団体のスポンサーは巨大企業である。こうして人格を与えられた企業は、政治家やアメリカ政府を買収し、世界に自由貿易協定を推進し、そこに参加する国家の主権を奪おうとしているのである。
TPPに関していえば、これはアメリカが中国に対して仕掛けている冷戦である。賢い中国は多国籍企業に主権を奪われるような協定には入らない。そこで他のアジア諸国をTPPに参加させることで環太平洋の貿易から中国を締め出そうというのである。さらに、イラクでもアフガニスタンでも戦争に負けているアメリカは、軍隊を環太平洋へ移動し始めている。インドネシアからほど遠くないオーストラリア北部にもアメリカ海兵隊の派遣が決まった。
このような好戦的な政策を政府にとらせているのも、巨大企業である。アメリカが1930年代の大恐慌を抜け出ることができたのは戦争のおかげだった。そして第2次大戦後、もっとも良い商売は永遠に続く戦争だということを、企業は学んだのだ。アメリカの2011年度の財政赤字は1兆6450億ドルで、GDPの1割以上に及ぶ。国債のデフォルト懸念もある。そのような沈み行くアメリカという国家を利用して、巨大企業連合はTPPを推し進めている。
経団連や好戦的な日本の政治家が求めているアメリカとの経済連携で誰が利益を得るのか。これまでアメリカがさまざまな国と交わした自由貿易協定をもう一度見直すとよいかもしれない。