昨年11月、アメリカのアラバマ州ジェファーソン郡が破産した。負債総額は約41億ドル(約3200億円)にのぼり、アメリカの自治体破綻では過去最大となる。
ウォール街占拠運動
一昨年にも、このコラムでジェファーソン郡の危機を取り上げたが、破綻の原因は住民のインフラである下水道システムが老朽化し、基準を満たしていないとして大掛かりな改修工事をするために地方債を発行したのが始まりだった。
ジェファーソン郡は投資銀行であるJPモルガン・チェースの助言に従い変動型の金利にし、それがリンクされたデリバティブによって金利が跳ね上がり破綻に至ったのだ。しかし、金利スワップの手数料として利益を手にしたJPモルガン・チェースは政府によって救済された。
強欲資本主義を象徴するウォール街の経営者は救済され、一方で自治体が破綻し、そのため住民には増税や下水道料金の値上げという形で影響が及ぶ。これこそまさに一握りの層、1%が富を独占することを訴えるウォール街占拠運動の構図である。
日本も近年貧富の格差が広がってきたが、それでもまだ日本でウォール街占拠運動のような大きなうねりが出ないのはなぜだろうかと思う。日本に長く住み、帰化をしていても、時々日本人の行動が分からなくなることがある。かつて安保闘争で激しく政府に反対していた日本人は、もはや娯楽やテレビに忙しく、メディアの流すニュースや広告以外のものを受け入れることはなくなってしまったのだろうか。
アメリカの地方自治体の破綻は、銀行が社会に害を及ぼした一例にすぎない。デリバティブとは、株や為替、さまざまな投機対象を組み合わせ、お金からお金を生み出そうとすることだが、もともとお金がお金を生むことはありえない。銀行は社会の経済をうまく機能させるための重要な役割を担っている。だから銀行がなければ社会は成り立たないからつぶすことはできない、という考えだけが一人歩きし、実際に行っていることを精査する人はいない。だからどんなに社会に損害を与えていようと銀行は救済されるのだ。
そればかりか、アメリカの場合、銀行はゼロに近い超低金利のフェデラルファンドレートで借りたお金を、住宅ローンであれば4%といった具合に貸し出すことで簡単に利益を得ている。このようにお金がお金を生むことで潤っているのが銀行なのだが、メディアや御用学者を使い、銀行は大切な仕事を担っているから特別だという概念を広めているために、誰もそれを疑問に持つことはない。
国を動かしているのは1%の資本家でも、実体経済を支えているのは99%の一般国民である。日本よりも貧富の格差が広がるアメリカだからこそ起きているウォール街占拠運動だが、日本国民も資本家とメディアが供託したマインドコントロールから抜ける努力を始めるべきだ。これ以上貧富の格差が広がる前に。