No.988 メタンハイドレート掘削

2月に愛知県渥美半島沖で、地球深部探査船「ちきゅう」が、メタンハイドレートの海底掘削を始めたという報道があった。

メタンハイドレート掘削

「ちきゅう」というのは、経済産業省の関連組織、独立行政法人海洋研究開発機構の地球深部探査センターの運営する科学掘削船で、統合国際深海掘削計画(IODP)の主力船として地球探査を行っている。IODPとは、ホームページの情報によれば日米主導の多国間国際協力プロジェクトで、地球環境変動や地球内部構造の研究をしているというが、実質はアメリカ主導のプロジェクトなのであろう。

メタンハイドレートは、日本政府が次世代エネルギーとして期待をかける海底資源で、未来の天然ガス資源などと喧伝している。そのため日本近海でボーリング調査などに毎年かなりの税金が投入されてきた。この「ちきゅう」も、深さ約1000メートルの海底から、メタンハイドレートを含む地層のある約300メートル下までを掘削するという。

数年前から、ピークオイルを迎え石油の産出量は減少すると私は言い続けてきた。石油が枯渇するというのではなく、産出が減少するため石油を採るのに非常にコストがかかるようになるということだ。安くて豊富な石油があるうちは見向きもされなかったカナダのオイルサンドやアメリカのシェールガスが注目されるようになったのもこのためだ。

2010年にメキシコ湾で起きたBP社の原油流出事故もコストとリスクの高い石油掘削によるものだった。この事故がどのようなひどい海洋環境破壊をもたらしたかは言うまでもない。そこまでして新たなエネルギーを探し求める必要が一体どこにあるのだろう。

石油も地球も有限である。人口が70億人を超え、ピークオイルを迎え、自然環境が破壊されている現実を直視すれば、再生可能なエネルギーへの転換を図りつつ、不足分は、産業活動も個人の生活も、より少ないエネルギーで行うようにするしかないのである。

 「ちきゅう」によるメタンハイドレートの掘削試験で気になるのは、掘削する南海トラフは過去に大地震が起きているということだ。昨年の東日本大震災以降、今後も関東で大地震が起きるという予測もなされているが、東海大地震、南海大地震と、日本列島はどこも地震活動期にある。東北地方の復興もままならないのに、多額の税金を投じて過去に大地震が起きている南海トラフの海底を開発して危険なメタンハイドレートの掘削調査をすることは賢明ではない。

福島の原子力発電所は、事故から1年たった今も高い放射線量が撤去の進捗を阻むなど収束とは程遠い状態にある。現在、日本で54基ある原子炉のうち稼働しているのはたった2基だが、電力不足は起きていない。今夏の電力不足を心配するかわりに、または危険を冒してメタンハイドレードを採るかわりに、企業も個人ももっと節電を心掛け、より少ないエネルギーで生きることを選ぶべきである。