No.989 素晴らしい出会い

先日、親しい友人を通して素晴らしいご縁をいただいた。来日して京都を訪れていたインド出身の思想家サティシュ・クマール氏と、環境運動家で文化人類学者である辻信一氏との出会いである。

素晴らしい出会い

9歳でジャイナ教の修行僧になったクマール氏はマハトマ・ガンディーの思想に触れて18歳で還俗し、平和と核廃絶を祈ってインドからアメリカまで、2年以上かけて徒歩で巡行をした。その後「スモール・イズ・ビューティフル」で知られる経済学者、シューマッハーと出会い、現在はイギリスで、持続可能で豊かな社会をつくるための学び舎「シューマッハー・カレッジ」を運営している。辻氏はスローライフの提唱者で大学教授でもあり、大学の生徒だけでなく彼によって人生観が変わったという人は数え切れないだろう。

数年前、クマール氏の自伝『君あり、故に我あり:依存の宣言』を読み、その自然観に感銘を受けたが、本人に触れてその思いはさらに強まった。彼の哲学こそ、自然を征服できると、または知識や技術がすべてを解決すると信じていたところを、地震、津波、原発事故に直面した日本人に必要なものだと私は確信する。3.11前と3.11後は、それくらい日本を大きく変えた。今こそ日本人は変わらなければならない時なのだ。彼はそのために来日し、日本の友人たちを気遣い、力づけ、勇気を与えてくれた。

クマール氏の学校で学ぶ者は、まず畑で食べるものを育て、それから料理を学ぶという。知識を詰め込む前に土に触れなければならない。トイレも自分で掃除しなければいけない。今の学校は利潤追求を教える場所になってしまったが、学校は本来、人間とは何か、どう生きるべきか、そして生きる力を身につけるところなのである。そして自然を征服するなどという思いは捨て、人間のほうが自然にあわせて持続可能な社会システムを再設計するときだと語ったクマール氏の言葉一つひとつに、私はうなずかずにはいられなかった。

ではわれわれは何をすればよいのだろうか。私に何ができるだろう。そう考えた時に浮かぶのは辻氏が紹介した、『ハチドリのひとしずく』である。一人ひとりが自分にできることをしていく。私ひとりでは、世界の貧困も環境破壊も原発も止められない。けれどもその問題に気づいた人が、それを他の人も気づいてもらう。山火事をバケツの水で消すような作業かもしれないが、たとえばこのコラムを読むことで気づいてくれる人がいることを、私は信じる。

クマール氏の主宰するイギリスの学校へは、日本からも多くの若者が学びに行くという。しかし持続可能な社会といえば、日本にはそれを実現した江戸時代という立派な手本がある。江戸時代の人は、土をいじり、料理をし、それから学んだり仕事をしたはずだ。身の回りのほとんどのものを自分の手で作り、資源を大切に使い、理論よりも実践が大切で、周りの人と協力し、助けあう社会がそこにはあった。

成長至上主義、経済優先による人間の営みが、われわれの存続そのものを危ういものにしているいま、持続可能な社会を実現するさまざまな知恵は、日本の歴史や価値観を振り返ることから始まるのだ。