No.990 議論なき偽造品取引防止協定

2009年に、懸念していることとして「偽造品の取引の防止に関する協定
(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:以下 ACTA)」について取り上げた。その名称から、模倣品や海賊版を取り締まる協定のようだが、これは広範囲にわたる力を外国の政府や版権所有者に与える国際条約である。

議論なき偽造品取引防止協定

この国際条約は、国民に内容を知らせることはもとより、国会で議論されることもなく、日本政府は昨年10月1日に署名をした。そのころもう一つの協定であるTPPを阻止しようという声が日本国内でも上がっていたが、その陰に隠れるようにACTAに署名し、その後でTPPへの参加を表明したのである。

TPPも秘密だがACTAも秘密だらけの条約である。経済産業省のホームページには、英語による39ページの文書があるが日本語はわずか2ページの概要が掲載されているにすぎない。国会議員が英語が堪能とは思えないから、どんな内容かを知ろうともせず条約に署名したか、または国民に知らせないようにするためのどちらかだろう。

アメリカでも昨年10月1日、オバマ大統領が日本と同じくこっそりACTAに署名している。アメリカで懸念されていることの一つは、ACTAによって「著作権」という名の下にインターネットのプロバイダーはサイトが著作権を侵害していないかを常時監視するようになるということだ。そして問題がありそうならプロバイダーはすぐにサイトを閉鎖することができる。ACTAは著作権侵害を告発する原告側が、相手に違法性があるかどうかを司法審査にかけなくて告発することができるという著作権所有者に有利な法律だからだ。これらの情報を私はインターネットを通して得ているが、自由にアクセスできるインターネットが、検閲によって大きく変わることがあり得る。

外務省のホームページには「(ACTAは)インターネットの海賊版問題について効果的に対応することの重要性を認識していますが、インターネット上の著作権侵害に対して、『段階的対応』や『スリーストライク』(注:3度目の違反で厳しく罰則を与える制度)といった対策をとることを政府に求める提案はされていません」という一文のあるプレスリリースが掲載されている。それならどのような提案がなされているのか、誰がその話し合いに参加しているのかも国民に告知すべきではないか。

そんな中でいま、政府民主党は「秘密保全法案」を作ろうとしている。これは防衛、外交、公共の安全・秩序の維持の3分野を対象に「秘密」を決めて漏えい者に刑罰を与えるというものである。この法律で、政府が国民に秘密にしたいことは、TPPでもACTAでも知らせる必要がなくなるというわけだ。

すでに民主主義がほとんど機能していない日本だが、さらに、政府や経団連に都合の悪いことは国民に有害であっても秘密にすることができる体制が作られようとしている。そうなれば民主主義が息を吹き返すことはさらに難しくなるだろう。