No.997 「電力不足」は本当か

5月5日、北海道電力泊原発3号機が停止し、日本にある54基の原発のすべてが停止した。経団連会長は「再稼働を進めないと日本経済は崩壊する」と述べ、また新聞やテレビでも盛んに「深刻な電力不足」になると国民の危機感を煽っている。

「電力不足」は本当か

昨年3月原発事故が起きた直後に、国際エネルギー機関(IEA)は、日本は原子力発電の不足分を補うだけの十分な石油火力発電による余剰能力を有している、と報じている。インターネットで記事を検索すればその記事はすぐに見つかるはずだ。IEAの推計によると、日本は2009年に石油火力発電能力の30%しか使用していないと言う。出力を調整できる火力と違い、原子力発電は一度動かすと出力調整ができない。そのため原発によって作られる電気を提供するために、深夜電力割引により積極的に推進されたのが「オール電化住宅」だったとも言える。

一方、一般家庭と違い産業界ではコストに電力料金が直接跳ね返るため、企業努力によってさまざまな節電対策が取られてきた。また太陽光発電を含め自社で発電設備を持つ企業も多い。自前の発電所を持つJR東日本では、昨年の原発事故のあと、列車の運転本数を減らして余った電力を列車の運行に支障がない範囲で東京電力に供給していたという。

主流メディアの報道だけをみると、電力の30%を超える原子力を止めると電力不足になると思ってしまう。原子力発電所の稼働率を上げるために、火力を停止させているという事実は報じられないからだ。貯めておけない電気の性質上、真夏の数時間のピークのためにどうしても原発が必要だというのなら、自家発電や操業時間の調整、一般家庭ではクーラーやテレビを我慢するといったことで充分乗り越えられるはずだし、実際乗り越えなければいけない。

先月、アメリカの友人から、福島原発事故の放射性物質によって汚染された東京を含めた本州から、4千万人以上の日本人をクリル諸島に避難(移住)させることを日本の政府が検討しているというニュース記事が送られてきた。クリル諸島とは北方領土のことであり、たしかにこの4月、民主党の前原政調会長がロシアを訪問し、北方領土は「日本の領土」だと改めて主張している。また日本政府は中国にある「幽霊都市」と呼ばれる居住地に、日本国民を移住させてはどうかという中国からの提案を真剣に考えているともいうのだ。

核燃料棒を原子炉から取り出すこともできない福島原子力発電所では、再び大地震や津波が起きて崩壊すればさらに大規模の放射性物質が放出される危険性がある。それだけでも空恐ろしいことなのに、もしこの記事の通り、日本政府が国民をクリル諸島か中国の幽霊都市に移住させることを検討しているのだとしたら、その同じ政府が、原子力発電所を再稼働しようとしていることが信じられない。

今の日本は、代替エネルギーを開発することも必要だが、まずは電力に100%の税金をかけ、無駄な電力使用を極力避けるようにするしかない。福島の原発事故で、家や土地、仕事を奪われた人の痛みを思えば、そしてエネルギーの未来を思えば、それがもっとも迅速かつ簡単な方法ではないだろうか。