No.1003 国家リーダーの無責任さ

オウム真理教による地下鉄サリン事件に関わっていたという元オウム真理教信
者が長い逃亡の末、逮捕された。当時私は、優秀な若者が「グル」の言いなりに
殺人まで犯したのは、バブル経済に浮かれた日本とそこで生きる国民に生きる目
的がなくなったからだと思った。

政府や企業への失望、信頼できるリーダーもなく、導きとなる精神的支えもな
い。その失望がオウム真理教へのめりこませたのだと思ったが、事件から17年た
ち、今の日本の現状をみると何も変わっていないどころか、国家リーダーの無責
任さはさらにひどくなっている。自民党の消費税増税を批判して政権をとった民
主党は、野田首相が率先し、消費税を増税する。

しかし無責任なリーダーは日本だけではない。国民を裏切るという意味で、オ
バマ大統領はそれ以上だ。オウム信者逮捕のニュースでもちきりの頃、インター
ネット上でTPPに関する秘密文書が『Public Citizen』という
消費者擁護団体のウェブサイトに公開された。

自由貿易協定を進めてきたアメリカだが、オバマは大統領選の時、政府が環
境、食の安全、国民の健康を守ることを妨げるような貿易協定を取り決めること
はないと明言してきた。しかしリーク文書によれば、オバマ政権は環境や銀行業
に関する規制に対して、アメリカ国内で活動する外国企業が訴訟を起こせる条項
を検討している。たとえばアメリカの環境規制が貿易障壁だとして、外国企業は
国際仲裁裁判所に訴えることができるのだ。

TPPに参加すれば日本でも同じことが適用される。このような内容だからこ
そ、TPPは秘密のうちに交渉が行われているのだろう。実際、TPP交渉はア
メリカの議員にも秘密で、その内容を知らされて意見を求められているのはハリ
バートンのような大企業だというから大統領が誰のためにTPP交渉をしている
かは明らかである。

1993年に北米自由貿易協定(NAFTA)が成立し、アメリカの主権は国
から大企業へ移った。NAFTA見直しを公約としていたオバマだが、就任後は
経済危機を理由に実行することはなかった。そして今度はTPPで多国籍企業支
配をさらに強めようとしている。

変化を求めてオバマを選んだ米国民が裏切られたのはそれだけではない。
ニューヨークタイムズ紙によれば、5月末からアメリカはパキスタンで無人機攻
撃を行ったが、その暗殺対象者をオバマ大統領自らが「機密暗殺リスト」を作っ
て監督しているという。ブッシュの始めたテロとの戦いを継承し、無人機による
冷酷な攻撃で強化しているのが、ノーベル平和賞受賞者で、日本の政治家が崇
めるアメリカの大統領なのだ。

消費税増税、国家の主権を棄てるTPP、野田首相はどこまで日本を壊せば気
が済むのか。有権者が政治家に懐疑的になり、民主主義を軽蔑しても、政府を正
すことはできない。原発再稼働に反対して4万人強がデモをしても、首相もメ
ディアも無視することができるが選挙はそうはいかない。結局われわれは投票以
外には抗議の手段はないのである。