7月上旬サンディエゴにて、環太平洋連携協定(TPP)の交渉が行われた。しかし
日本国内では相変わらず国民への説明はおろか、まともな議論もなされてはいない。
昨年からアメリカで始まったウォール街占拠運動は、日本のメディアはもはやほ
とんど報じることはないが、基本的にそれは企業がアメリカを乗っ取り、99%の
アメリカ人を強奪していることに対する抗議活動である。規制緩和によって多く
の自由を手にした企業は、経営者や株主の利益を最大にするために好き勝手なこ
とを行え、さらにその利益を使って政府を買収する。政府を味方につけたわけだ
から、違法なことをやるなら法律を変えさせて合法にすればよいだけだ。
たとえば今アメリカではバイオテクノロジー企業にさらなる自由と特権を与える
「モンサント保護法」が承認されようとしている。これは安全性が確認されてい
なくても遺伝子組み換え作物を作ってもよいというものだ。遺伝子組み換えは品
種改良の延長で、人類の進歩の証しで安全だという人がいるが、そう信じている
人が遺伝子組み換え作物を食べるのを私は止めはしない。しかし私は、長期的な
安全性の分からないものを食べたくないので、遺伝子組み換えを選ばない自由を
消費者として要求しているだけだ。
モンサントは遺伝子組み換え作物を推進することによって、種と農薬の使用権と
特許料を独占し、そのすべてにおいて利益を上げることができる。このような
1%にしか利益をもたらさない法律について、アメリカのメディアが報じないの
はメディア所有規制緩和により寡占が進んだからだ。新聞社と放送媒体は同じ企
業となり、広告主である企業に都合の悪いニュースがヘッドラインを飾ることは
まずないし、それどころか、たとえ嘘でも繰り返し報道することで、国民はそれ
を本当だと思うようになるという心理を利用してプロパガンダ機関となったのが
現代のマス・メディアなのである。
日本がTPPに参加すれば、多国籍企業は日本でも同じように圧力をかけ、遺伝子
組み換えや食品原産地のラベル表示義務を取り除くだろう。そうなればどこでど
う栽培されたかを知る手段はなくなる。そんな条約だからこそTPPの交渉はアメ
リカ政府と大企業が密室の中で行っている。つまりTPPは貿易協定などではな
く、企業が国家を支配するためにその国の社会システムを変えさせることなの
だ。99%を搾取する1%に国家統制を委ねるシステムをつくり、1%に天然資源
の支配権を手渡し、環境を自由に破壊する権利を与え、国民の仕事が国内になく
なろうとも最低賃金のところに生産拠点を移し、金融機関への規制をなくし、安
全や健康のためにかろうじて残っているあらゆる規制や企業の責任を取り払うた
めの道なのだ。
幸いオーストラリアやニュージーランド政府は、ISD条項(投資家対国家間の紛
争解決条項)や国の医薬品規制に製薬会社が異議を申し立てられるようなTPPの
提案に反対しているため、交渉にはまだ時間がかかりそうだが、それも時間の問
題かもしれない。
原発の再稼働、消費税の増税、TPPにACTA(国際貿易協定)と、99%の日本国民
を痛めつける政策を次々と打ち出してくる日本政府をみると、もはや日本がアメ
リカなみに1%に支配されているということだけは間違いない。