No.1008 オーウェル的全体主義国家

先月、アメリカのオバマ大統領による「サイバー攻撃の脅威を重大視する」と題する寄稿が、ウォールストリートジャーナル紙に掲載された。原文はホワイトハウスのWebサイトに掲載されたもので、アメリカの重要なインフラがサイバー攻撃の標的として狙われていることを挙げ、安全強化に向けた取り組みの必要性を訴えるものだった。

これは、サイバーセキュリティーのコンサルタントが中国政府がアメリカ企業を盗聴しているとか、防衛評論家が政府はハッカーを雇ってサイバー戦争に勝つべきだと言っているのではない。大統領がアメリカはサイバー攻撃を受けていると言っているのであり、これは攻撃する相手にではなくアメリカ国民への強いメッセージだと私は思う。

現代社会は個人も企業も国家もコンピューターシステムやネットワークを利用し、それらは相互に関連していて見えない脆弱性が数多く存在する。そのため民間企業や各個人がその対策に関与しなければサイバー攻撃対策として万全とはいえないことは確かであろう。アメリカに限らず、近代工業国家の経済や社会は、あまりにも複雑で相互に依存し、さらにインターネットや通信システムなしにはもはや成り立たないのである。

それらのシステムにサイバー攻撃が真の脅威であることは紛れもない事実だが、残念ながら、サイバー攻撃から身を守ることはほとんど不可能なのである。ウランを核分裂させて利用する原子力が生み出す有毒な核分裂生成物という放射性物質を無毒化する技術を、人類が持っていないのと同じだ。

オバマ大統領のこの寄稿は、起こりうる脅威について述べているだけで、脅威に対して実際どのような手段を講じるのかを明らかにしていない。このやり方は、「脅威」を煽って国民を怖がらせ、その後でいかなる対策を発表しても黙ってそれを受け入れさせようという常とう手段にほかならない。

大統領就任以来、オバマはブッシュ同様、急速にアメリカを独裁帝国に変えた。議会の承認なしに他国を爆撃し、裁判所の許可なしにアメリカ国民をスパイ扱いし、誘拐して拷問を加え、またいかなる国の人でも大統領には暗殺する権利があると主張し、誰がテロリストかを一方的に決めつける。こんなオバマが提案するサイバー攻撃対策は、これまでの政策と同じく1%の人々のために奉仕するものであることは間違いない。

サイバーセキュリティー法案の成立を急がせ、合法になればサイバー攻撃から自社を守るという理由で、いかなる企業でも電子メールや個人情報を取得分析することができるようになり、それには電子メールやソーシャル・ネットワークの書き込み、メッセージなども含まれるだろう。従来の盗聴法や通信法における秘守義務条項などまったく無視され、サイバー・テロと関係がなくても刑事事件の捜査などに利用されることもありうる。オバマやワシントンの非人道的な政策を批判する声が監視され、スパイされるために利用されるのだ。

こうしてアメリカは、自国民をスパイし、異議を唱える者を弾圧、逮捕する「オーウェル的」な全体主義国家にまた一歩近づくのである。