No.1011 富裕層に都合いい米税制

アメリカの大統領選挙を控えて、オバマ大統領と共和党候補のロムニー前マサチューセッツ州知事間で舌戦が続いている。

どちらが大統領になろうとも、資金供給源であるウォール街や軍需産業の思惑通りの政策が続くことは間違いないし、それが金権主義だ。アメリカを動かしているのは政府ではなく政治家を買収した大金持ちや大企業であり、大統領はその「雇われ人」にすぎないのである。

ロムニー陣営はオバマ政権で悪化した財政を批判するが、それに対してオバマ陣営は、ロムニー氏が創業した投資会社「ベインキャピタル」の、自分と投資家の利益のためなら従業員も地域社会も犠牲にして企業売買を行うという手法を批判する。

ロムニー氏が共同設立したベインキャピタルのビジネスモデルは、企業をわずかな資金と、残りは投資銀行などからの融資で乗っ取り、価値のある部分だけを 自分のものにするというものだ。たとえば企業価値が5億ドルとすると、ベインは2千万ドルを出し、3億5千万ドルをゴールドマンサックスから借りて経営支 配権を手にする。問題は、ベインが買収のために借りたお金は、買収された企業が返済していかなければならない。

買収された企業はこの借金によって収益が悪化し、可能な限りリストラを始めるが、ここで、誰を解雇すべきとか、どの事業を止めるといった助言をベインは 提供し、再び多額の手数料がベインに支払われる。これらの出費を捻出するために、企業はさらに従業員の給料や手当をカットするのだ。

この買収によって企業がスリムで高収益体質になれば、ベインはその企業を売却して大もうけをする。さもなければ企業は借金を返済できずに破綻し、あとに は職を失った従業員と企業を失った地域社会が残る。ベインはといえば、現金資金の多い企業を選んで買収をするため、破綻までに十分な現金を吸い取ることが できるというわけだ。

他の人に借金をさせて自分は大きな利益を得る、それがロムニーのビジネスモデルであり、この手法(レバレッジド・バイアウト)を可能にしているのが借金 の利子を控除できるという税制である。もし控除がなければ買収はあまりにも高価で不可能となり、言い換えると、税制が企業買収を奨励したともいえる。

さらにロムニーが企業買収で得た利益は所得として課税されず、「キャピタルゲイン」または「繰越持分」とみなされ、税率も15%だ。彼が無税または極め て低い税率で優遇する租税回避地を利用していたことは言うまでもない。いまの税制は、富裕層になるほどさまざまな優遇や抜け穴が用意されており、公平な税 制であれば、ロムニーがここまで金持ちになることはなかったし、貧富の格差がここまで広がることもなかっただろう。

かつて、富裕層や資本家が豊かになると彼らはそれに見合った税金を払い、道路や鉄道などのインフラが造られ、同時に幅は小さくても一般庶民の生活レベル や地域社会も豊かになっていった。しかし略奪の唯一の受益者となった富裕層は、もはや得たものを他の国民に分け合うつもりはまったくないようである。