No.1012 TPP加入急がす試算

アジアと太平洋地域の国際協力を推進するという組織、太平洋経済協力会議
(PECC)が、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)に入れば、国内総生産
(GDP)を約9兆3千億円押し上げるという試算をまとめたという。


この試算は関税の撤廃だけでなく、サービスや投資の自由化も想定しているた
め、日本政府の3兆円という試算の3倍近い経済効果になっている。TPP加入
で貿易が活発化し、GDPが増えれば国民の所得も増え国が豊かになる。こう
言ってTPP加入を急がせるためのレポートであろう。

GDPは国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の総和で、
つまり、人間にとって良い取引でも悪いものでも、金銭取引が行われればGDP
の数字は増えていく。交通事故、伝染病や生活習慣病などの病気、放火、そして
殺人事件など人々が歓迎しない事象によって発生するさまざまな金銭取引、これ
らがすべてGDPに貢献する。殺人犯人が捕まれば、税金で刑事裁判が行われ、
有罪で刑務所に入ればそれもGDPにプラスとなる。森林を伐採し自然を破壊し
ても、さまざまな天然資源を採掘して枯渇させても、GDPは増えていくのである。

GDPが増えれば、たとえ何がGDPを増やしたとしても経済のファンダメンタ
ルズ(基礎的条件)は良好だとエコノミストは言う。金銭取引のすべてが好まし
いわけではないのに、こんなばかげたことはない。その金銭取引が人間を幸福に
するか不幸にするかGDPにその区別はないのに、そんな数字を増やすことを目
指して、政府は国を運営している。

人類の進化を否定するつもりはない。人口が増え、集落から村へ、町から都市へ
と拡大するなかで金銭による取引の導入も必要なことであった。しかしその取引
で保有する金銭や富が増えるほど、持てる者はそれを維持し、増やそうとする。
持てる者にとってそれは簡単だ。ガードマン、弁護士、会計士を雇い、または政
府や官僚、メディアを買収して自分たちを守るための法律やルールを作ってい
く。そんなルールの一つが、政府と大企業が国民に秘密のうちに交渉を進めてい
るTPPなのである。

報道管制が敷かれているとしか思えぬほどTPPに関してメディアは沈黙してい
る。メディアのスポンサーである大企業の権利を強化するためのルール作りであ
るからそれも当然で、知りたければ漏えいされた情報をインターネットで探すし
かない。政治家でさえ交渉内容を知らないのだから、民主主義とかけ離れたその
秘密性がどれほどなものか一般国民には想像もつかないのが現実だ。

TPPは、大企業の利益を国が妨げることができないよう、社会構造を作り変え
るものだと言っても過言ではない。企業に国を訴える力を与え、グローバリゼー
ションという名のもとで無国籍となった企業は国境など関係なく雇用を流出さ
せ、戦争を煽(あお)る。社会的ニーズの充足などもちろん関係ない。その一方
で国民が結束しないようインターネットの言論の自由も規制し始める。それらす
べてがGDPを押し上げ、経済を繁栄させるのだ。企業支配による帝国主義の時
代が始まりつつある。