2010年から11年にかけて、チュニジアでの暴動に始まりアラブ世界では前例にないほどの大規模な反政府デモや抗議活動が起き、アラブ各国に波及した。
アメリカではウォール街を占拠せよという市民による抗議運動が始まって1年以上がたつ。
日本でも同じように、原発再稼働に対して、またはTPPを阻止するための市民活動、そしてアメリカでもその墜落事故の多さから住民の反対により訓練計画が棚上げされている米軍垂直離着陸輸送機オスプレイの配備に対する抗議活動など、かつて見られなかった規模の抗議活動が続いている。しかしそういった市民の行動をテレビや新聞などの主流メディアがほとんど取り上げないために、政府の政策に対して反対意見を持っている人々の力をさらに集結し、広めることができないのが現状である。
特にTPPのように大企業を中心に秘密裏に交渉されている国際協定については、メディアを支配するその推進者である経団連によって統制が敷かれ、まともな議論どころか国民に存在すら知らせたくないようだ。思考をしない羊のような群れにするために娯楽やスポーツ番組だけを与え、消費者というマーケットのいる世界をつくろうとしているのであろう。
自由貿易の始まりは1995年に発足したWTOである。前身は関税と貿易に関する一般協定(GATT)で、製品やサービスを輸入する際にかかる関税や規制をなくし、各国の輸出入を増やせば、消費者にはより安いものが手に入るというふれこみだった。しかしWTOの真の目的は輸出入企業を助けることであり、その結果、消費者には安い製品の代わりに環境破壊や雇用の流出、地域社会の崩壊といった大きな代価がもたらされた。
自由貿易はすべての国に利益を与えるとアメリカの経済学者ポール・サミュエルソンは言ったが、自由貿易がアメリカにもたらしたものは、関税撤廃による政府の歳入の減少、低賃金を求めた資本や産業の海外流出であり、結果、国内には安い賃金の仕事しか残らなくなり、国民は貧困化し、貿易赤字は膨れ上がる、という状況になった。それにもかかわらず、日米政府はさらにその自由貿易を推し進め、TPPのような国家の主権さえも壊すようなシステムをつくろうとしている。
このような日本政府の方針に対して、アラブの春やウォール街占拠のような抗議運動がどれほどの効果があるのか私には分からない。しかし、巨大な企業に買収され、支配された政府に抵抗するには、もはやゲリラ的な戦いになろうとも、できることをやっていくしかないだろう。
抗議活動は参加する人がいなければ進展はしない。そして一人ずつでも、日本が直面している問題に気付いて政府に「NO」を突きつける人が増えていけば革命的なことが起こる可能性は誰も否定できない。そしてたとえ革命を起こすことができなくても、一人でも多くの国民が国のことを真剣に考えるようになれば、今よりもよい国になることだけは間違いない。