No.1022 TPP、不平等条約の再来

国民皆保険制度のないアメリカでは、約4700万人、国民の6人に1人は健康保険に入っていない。未加入ゆえに経済的理由から医療を受けられず、亡くなる率も年々増加しているという。

そんなアメリカで最大規模の医療サービス団体であるカイザー・パーマネンテは、加入者に医療サービスを提供する一環として、健康のために遺伝子組み換え食品をなるべく避けるようにとニュースレターで助言したという。

遺伝子組み換え食品の表示はアメリカでは義務付けられていない。そのため、特に遺伝子組み換えの多い、とうもろこし、大豆、菜種油、綿油、砂糖大根は避けるように、また加工食品は約8割が、ファストフードではほとんどが遺伝子組み換え食材を使用しているため、それらも避けるようにと警告したのである。

遺伝子組み換え食品の危険性は独立系の研究機関の動物実験などですでに立証されている。医療サービスを提供するカイザーがその危険性を加入者へ警告し、また対策として遺伝子組み換え不使用の認証済み有機食品の購入を推奨することはきわめて当然のことである。安全性の調査やこうした勧告は、本来ならば政府機関によって行われるべきことだろう。しかしバイオ企業から多数の仲間がオバマ政権内に送り込まれているため、政府の規制を当てにすることはできない。

昨年11月、カリフォルニアでは遺伝子組み換え食品の表示を義務付ける発議案の州民投票が行われ、53%対47%で「義務付けない」こととなった。遺伝子組み換え種子を作るバイオ企業が資金を提供し、“食料品が値上がりする”といったテレビコマーシャルを流したことも一因だと言われている。これはアメリカのことで日本には関係がないことのように思われるかもしれないが、日本がTPPに参加すればまったく同じ状況になることは目に見えている。

実際、すでに日本にも遺伝子組み換え作物は大量に輸入されている。最近、家庭菜園でニワトリを飼い始めたが、家畜の飼料は表示義務対象外であり、ほとんどが遺伝子組み換え作物を使用していると知り驚いた。しかし、日本がカロリーベースで6割輸入に頼っていることを考えれば当然であり、これが現実なのだ。

TPPを推進するのは、アメリカの政府と密接な関係を持つ多国籍企業をはじめ、これまで政府が持っていた力を自分たちの手にするための枠組みをつくりたい企業連盟である。特に、ISD条項(国家対投資家の紛争処理条項)により企業が相手国に不平等な扱いを受けた時、企業は相手国を訴えることができる。つい先ごろも、韓国政府の規制で損害を受けたとして、アメリカの不動産専門ヘッジファンドの運用会社「ローンスター」が韓国政府を国際投資紛争解決センターに提訴している。

遺伝子組み換え食品の席巻、対政府訴訟など、TPP参加によって日本でも同じことが起こり得る。そして日本社会を形作っているあらゆることがアメリカの圧力によって破壊されていくだろう。TPPはアメリカとの不平等条約の再来なのだ。