政権を取り戻した自民党が新年早々に行ったことの一つは防衛費の増額であった。補正予算として昨年度より1200億円増額し、約4兆7700億円を計上したのである。増額分には国民が反対しているオスプレイを自衛隊で導入するための調査費用や自衛隊員の増員も含まれる。
昨年、尖閣諸島問題における石原前都知事の購入案発言などから、海外メディアは日本のナショナリズム台頭を懸念する論説を掲載した。タカ派の安倍首相が再び自民党総裁に就任したことで、日本が軍事大国化に突き進んだ19世紀に戻るのではというような声も聞こえる。確かに、この防衛費増額は中国だけでなく北朝鮮や韓国などアジアの近隣諸国も刺激したことは間違いないだろう。
昨年、チベットの指導者ダライ・ラマ14世が来日した際にも、会見した安倍首相は「チベットの現状を変えていくため全力を尽くす」と発言して中国の反発を受けた。日本国内では福島の復興やまだ収束していない原発事故という、国民の生命に関わる重要な問題を抱えており、福島原発の廃炉にかかる費用や賠償金すら確保できないような状況だ。チベットの現状改善も大切だが、まずはこのような状況にある日本のために全力を尽くすのが政治家の仕事であろう。
またデフレ経済の克服ということでインフレターゲットを設定し、金融緩和措置を取るという安倍首相の金融政策のために円安が進んでいるが、円安の恩恵を受けるのは輸出企業だけだ。日本が輸入しなければならない原油をはじめとするエネルギーや食料などの負担が増え、国民にとっては増税と同じ影響が及ぶ。さらに国際市場における日本の資産価値も国民の所得価値もすべて縮小するのである。
赤字財政で国が破綻するといって増税したり年金や福祉を削減しているなかでの防衛費増額は、戦争中毒のアメリカと同じである。アメリカのオバマ大統領は、就任してから4回もの未臨界核実験(核爆発を伴わない核実験)を行った。世界に核兵器が存在する間は核戦力を維持するといい、今年に入ってからもパキスタンやイエメンで無人機攻撃によるミサイル爆撃を行っている。
どんなにアメリカ国民が貧しくなり国家財政が赤字になろうとも、記録的な軍事予算をとっている限り軍事支出に依存している米国企業にとってアメリカは不景気知らずの黄金時代だ。そう考えると、日本の軍事費(防衛費)の拡大はアメリカや日本の軍需産業を富ませるために欠かせないものといえる。軍産複合体国家の繁栄は平和や安定を犠牲にし、福祉や教育など一般国民のための予算を削減するという犠牲の上に達成されるのである。
1939年、ドイツでは誰もが戦争の勃発を予期したが阻止できず、戦争に突入した。安倍首相がさらに憲法を変えて集団的自衛権の行使を認めれば、ドイツと同じ道を日本が進むことにもなりかねない。