NO.1027 大気汚染に国境なし

インフルエンザがはやっている。1900年代初めに世界的に猛威をふるったスペイン風邪では4千万人以上の死者が出たというが、いくら医学が進歩しても人類とウイルスとの戦いは終わりそうもない。

インフルエンザの薬に“タミフル”があるが、これはアメリカの国防長官だったラムズフェルドが会長を務めていた会社が開発した薬である。タミフルの副作用については以前から言われているにもかかわらず、日本政府は5千万人分ものタミフルを備蓄し、世界のタミフル年間販売量の8割を購入しているのが日本だというから驚く。

私は西洋医学を否定するつもりはない。医療の発達や衛生環境の改善によって平均寿命が伸び、人類に大きな恩恵がもたらされた。それでも、大きな持病でもない限りインフルエンザの一番の特効薬は休養だと思うし、予防注射や薬に頼るのではなく、十分な休息と睡眠、身体を動かすこと、太陽にあたって野菜や果物を中心とした食生活にすることなどを国民に政府が奨励すれば、どれだけ健康度がアップするだろうかと思う。

健康といえば、アメリカでは1971年、当時のニクソン大統領が「米国がん対策法」に署名し、麻薬やテロとの戦いと同じく「癌(がん)との戦い」が開始された。しかし40年以上たった今もその戦いに勝てないどころか、原因究明もなされず、外科療法・化学療法・放射線療法以外の治療法も確立されないまま死因の上位にランクされている。

2010年、日本の医療費はGDPの9・5%にも上った。労働によってもたらされたすべての価値の1割が医療に費やされたということだ。アメリカに至ってはこの数字は17・6%にもなる。国民の健康は経済成長に貢献しないが、自然を破壊して水や空気を汚し、人々が健康を害するとそれで経済は成長する。だから政府は、国民に健康的な暮らし方より、予防注射や薬を飲むことを薦めるのかもしれない。

最近では中国の大気汚染の問題がいわれている。微粒子状物質が体内に入るとぜんそくや気管支炎だけでなく、肺癌になる恐れもあるというが、高度成長期の日本も同じ問題を抱えていた。

わずか40年ほど前、日本では大気は煙突や車から吐き出されるガス、川や海の水は工場からの廃液で汚染され、人々に多大な健康被害を及ぼしていた。日本に来て初めて知った「水俣病」「イタイイタイ病」「四日市ぜんそく」といった言葉を、今でも覚えている。その後さまざまな対策が取られて廃液処理や車の排ガス対策で最も進んだ国の一つとなり、環境産業は日本経済を支える重要な産業となったのだ。

中国は日本と比べて人口も国土も桁違いに大きく、中国の大気汚染が日本そして世界に及ぼす影響は甚大である。中国が当時の日本と同じ道をたどっていると考えれば、非難ばかりするのではなく、日本が持っている中国が必要としている環境技術への協力を惜しまないことだ。大気汚染に国境はないのだから、日本国民の健康を考えるとなによりもそれが望まれる。