No.1030 アメリカと自動車分野協議

日本政府が交渉参加を目指す環太平洋連携協定(TPP)に関して、アメリカと自動車分野での協議を開始するという。このことからもTPPが事実上日米間の自由貿易であることは明らかだろう。

アメリカは日本の軽自動車の税制優遇見直しと安全基準審査の簡素化を要求している。自家用軽自動車の自動車税は年7200円と普通車よりも割安である。軽自動車を造っていないアメリカの自動車会社は、この税制優遇がアメリカの車が日本で売れない理由だとして以前から見直しを求めていた。

また安全基準の審査では、見本車両の審査が免除されて書類審査だけになり、審査期間が半分に短縮されるという。

輸入自動車に関して、アメリカでは関税をかけているが日本はすでに関税はゼロだ。このためアメリカの自動車会社はTPPによって日本車のアメリカへの輸出がさらに増えることを警戒してきた。日本の軽自動車の優遇税制見直しはそのための交換条件ともとれる。

軽自動車は日本独自のもので、昨年国内で販売された乗用車の約3分の1は軽である。TPPの交渉のために、なぜ日本がその税制をアメリカの命令で見直さなければならないのか。日本市場のためになぜ軽自動車を開発して輸出しないのか、それとも日本の優秀な自動車には最初から勝てないと思っているのか分からないが、TPPはこのように企業が外国政府に要求を突きつけられるようになる協定だ。

特に地方で軽自動車は交通手段として大きな役割を果たしており、県によっては自動車保有台数の50%以上を軽が占める。外国企業の命令で自国民の利益を損ねる協定を安倍首相は結ぼうとしている。

日本には「天下り」があるがアメリカのそれは「回転ドア」と呼ばれ、民間の大企業経営者が回転ドアを通るように政府と民間企業をいったりきたりする。こうして資金力のある大企業が政府をも動かす。企業の目標は短期的な利益追求であり、大部分の国民が求める長期的な目標と相反するのは当然である。

TPPにはさらにISDS(投資家対国家の紛争解決)条項とラチェット規定というものが含まれる。ISDSでは、外国企業が政府によって投資の損失を被っ
た場合、その損害について相手国政府に対し賠償を求めることができ、ラチェット規定は、協定が発効した後は自由貿易に逆行する新たな規制を作ることができないという規定である。言い換えるとTPPによって日本政府は今後、外国企業の利益を損ねるような国民の安全や健康、環境を保護するための規制を強化することが禁じられるのだ。

TPPによって起こり得るこれらのことを杞憂だと一蹴することは簡単である。しかし過去にアメリカがさまざまな国と結んだ自由貿易協定をみれば、わたしにはそれが現実のことのように思えてならない。TPPは企業の主権を国家の高さと同じレベルに高める、言い換えると、国家の主権を企業と同じレベルに下げるものだからだ。