No. 1033 シェールガス・バブル

TPPへの参加は日本のエネルギー政策の視点から必要不可欠だという人がいる。特に、TPPに参加すればアメリカの安くてクリーンなシェールガスを日本も安定供給してもらえるというのである。

アメリカでは数年前からシェールガスが注目を集めているが、それは安くもクリーンでもない。開発が盛んになったのはアメリカ政府が開発時に税制を優遇したからで、また二酸化炭素排出量がバイオエタノール並みの少なさというだけで、採掘時には大量のメタンガスを大気中に放出する。したがって人体や環境に及ぼす影響は甚大で、クリーンとは程遠い資源なのである。

英語の記事を検索すればシェールガス資源を抱えるテキサスやルイジアナなどで開発作業が環境に与える悪影響や、アメリカ政府の意図的な優遇の可能性を示唆する記事がいくつも見つかる。つまりシェールガスは石油に代わる新たなエネルギーではなく、新たにつくられたバブルであり、時がくれば採算が合わないことは明らかにされていくと私は確信している。

福島原子力発電所のメルトダウンから2年以上がたつが、政府や財界リーダーたちはどんなに環境や人体を危険にさらしてもまだ原子力発電を続けていく意向だ。日本国内に50基もの原子力発電所を造った自民党政権を選んだのは有権者だから、それが日本国民の総意なのかもしれない。

原発事故の後、脱原発の動きがみられたが、自民党安倍政権は経済の成長戦略を政策の柱として圧勝した。政府は2030年の原発比率について「0%」「15%」「20~25%」という三つの選択肢を示し、原発を0%にすれば国内総生産が約50兆円減少し、失業者が200万人増えるといったシナリオを国民に提示したのだ。これらはあくまでもシナリオであり、その一方で原子力発電を続ければそこから出される使用済み核燃料は増え続ける。現状でも行き場のないこの核のごみを無視し、国民も経済を選択したことになる。

TPPに参加しなければ日本経済だけが他国から遅れをとると安倍首相は国民にTPP参加を促す。しかしTPPの真の目的は日本をアメリカ型社会に変えることだ。一例が、日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどには国民皆保険制度があるが、先進国の中で唯一アメリカにはそれがない。だからアメリカでは、大きな病気にかかると失業の恐怖だけでなく医療費のために個人破産する人も多く、それを避けるためには民間の保険に入るしかない。

国保制度のある日本人にとってはいくらアメリカの実態を言葉で聞いても、それを理解することは難しいかもしれないが、TPPによってアメリカが日本の国保制度に圧力をかけてくる可能性は極めて高い。なぜならTPPの目的は貿易だけでなく、外国企業を日本の国営企業や政府組織と同じ条件で競争できるようにすることだからだ。しかし安倍首相は日本国民にTPPが与えうるこうしたマイナス効果を語ることは、決してないのである。