環太平洋連携協定(TPP)、消費税増税に加えて自民党安倍政権が日本に導入しようとしているものに、「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」がある。
これは一定収入以上のホワイトカラーを労働基準法の労働時間規制の対象から除外し、何時間働いても会社が残業代を支払わなくていいようにするというものだ。現在検討されているのは裁量労働制と呼ばれるもので、ホワイトカラーに勤務時間の裁量権を持たせるかわりに週40時間までという労働時間の制限をなくし、何時間働いてもそれをその社員の裁量とするという。
私個人は、労働時間ではなく労働の成果に対して報酬を払うほうが好ましい制度だと思っている。しかし日本の現実と照らし合わせて考えた時、今ホワイトカラー・エグゼンプション制度が導入されたらどうなるだろう。企業は残業代を節約できようになる一方で、社員に対して裁量権を持たせるという名の下で残業代を支払っていた時と同じ結果を要求し、結果的にしわよせは勤労者にくることになるのではないか。従ってホワイトカラー・エグゼンプションの導入に私は反対する。安倍首相は以前首相を務めていたときもこの制度を導入しようとしたが、彼の提案はどうみてもTPPや消費税増税など、一般国民ではなく日本経団連に都合のよい政策ばかりである。
ホワイトカラー・エグゼンプションを実施すれば企業は膨大な人件費を節約できるようになるかもしれない。しかしそれはあまりにも近視眼的だ。もしサラリーマンが残業代を支払われなくなったら日本経済にどのような影響を及ぼすか、安倍首相も経団連も分からないのだろうか。日本経済の70%は国内消費なのだ。企業で働く多くの一般勤労者の残業代がなくなったら、つまり収入が減れば、確実に日本の消費を直撃する。消費が減少すれば、その消費のために行われる設備投資も減少し、ますます日本経済は縮小するだろう。勤労者は一部の富裕層と違い、所得の大部分を消費に回す。日本経済を大きく、または小さくする最大の要因は一般勤労者の消費なのである。
去る3月には、竹中平蔵氏が提唱する「解雇規制緩和」、つまり正社員を自由に解雇ができるようにする政策を安倍首相は否定したというが、ホワイトカラー・エグゼンプションとともに解雇規制を緩和することが資本家や株主の目指すところであろう。従ってこの提案は今後も注視していく必要がある。
アメリカで失業が悪化し、経済を停滞させたのは製造拠点を海外へ移転したことに加え、規制緩和により労働組合を骨抜きにしたことであった。それまでアメリカでは労働組合が強く、経営者が不当解雇できないようにするセーフティーネットの役目を果たしていた。その法律を改悪することで今やアメリカは世界でも最も解雇しやすい国の一つとなっている。竹中氏や安倍首相は、そのような社会を手本として日本のかじ取りをし、政策を立案しているのであろう。