安倍政権が掲げる金融・経済政策、「アベノミクス」が日本国民にじわじわと悪影響を及ぼし始めている。
景気をよくするために、日銀は今後2年間、国内に出回るお金の流通量(マネーサプライ)を現在の2倍に増やすと発表した。その方法は政府が国債を毎月7・5兆円購入するというもので、この超金融緩和策が発表されて株価は上昇し、さらに円安が進んだ。
日本国家の歳入のうち、税収は半分程度で残りは公債、つまり借金に頼っている。さらに歳出の24%は国債費という名の借金返済に充てられる。それにもかかわらず、政府は今後さらに毎月7・5兆円ずつ借金を積み上げていくのだという。
政府の目的通りインフレになれば、国債の金利も上がる。国債の金利が1・5%に上がれば政府は国債の利子に国家歳入の半分以上を支払わないとならなくなる。国が国債発行という形で借金ができるのは、将来の税収を担保としているからで、借金返済に行き詰まって財政が破綻すれば、その矛先は担保である国民にかかってくる。つまり国民の預金で国の借金を返すということだ。日本の借金はすでにGDPの200%にまで膨れ上がっていて、この金融緩和策により2年を待たずとも財政危機が訪れる可能性は高い。銀行に預けているのは自分のお金で、それが没収されることはないと日本国民は信じているかもしれないが、3月にキプロスで起きたことを思い出してほしい。
財政破綻したギリシャ国債を大量に購入していたキプロスの銀行の負債は、キプロス政府が公的資金で救済できる額をはるかに超えていた。そのためキプロス政府は、預金税を課して預金口座にある預金の10%~30%を取り上げたのである。遠い国の話のようだが、キプロスの措置で銀行が破綻したときは市民の預金を没収するという前例が出来上がった。
なぜ日本政府が巨額の借金を抱えるに至ったのかといえば、国が通貨を作らず、国債を発行してお金を借りているためだ。「部分準備銀行制度」によって、国内で流通するお金の約9割は民間銀行が「貸付」によって作り出している。銀行は預金者から預かっているお金の100倍以上を貸し出すことができ、利子を取ることができるのである。現代の通貨制度では銀行が無からお金を創り出せるのだ。通貨発行権が民間銀行にあるがゆえに政府は銀行からお金を借り入れ、税収の不足分を補っている。そのため1970年には3兆円に満たなかった日本の公的債務は、71年から2010年の間に642兆円に膨れ上がった。
もし政府が貨幣を発行するなら、利息や償還という無駄な支出がなくなる。逆に言えば、今の通貨制度のままではいずれ日本の財政は破綻に向かうだろう。アベノミクスはそれを早めるだけだ。
景気回復とは国民の暮らしを豊かにすることであって株価を上げることではない。株が上がってもうかるのは金持ちだけだ。一方インフレで物価が上がれば国民の生活は苦しくなる。安倍政権の政策によって、持てる者と持たざる者の格差はさらに広がっていくのである。