去る4月、安倍内閣は「電力システム改革」を進める方針を閣議決定した。改革は3段階からなり、2015年までに地域を超えて電力のやりとりをする機関を設立し、第2段階で家庭や企業に対する電力の小売りの完全自由化を行い、3段階として電力会社が発電も送配電も行っているのを20年には分離し、併せて電気料金規制を撤廃して全面自由化するというものだ。
日本では沖縄を入れて10の電力会社が地域ごとで独占的に電力を供給している。そのため、11年の東日本大震災と福島原子力発電所の事故で原発が稼働停止した際に地域間で電力の融通ができないという問題が起きた。それを解決し、また世界の中でも高い日本の電気料金を下げて経済を回復させる、そのためには電力の自由化で市場原理を利用してより安く電力を供給するための「改革」らしい。
日本の電力が他国と比べてどれくらい高いのか分からないが、平成の20余年間で経済も人口も横ばいの日本の電力使用量は30%も増加した。1人当たり電力使用量はアメリカよりは少ないがヨーロッパやアジアの人々と比べると格段に多い。電気料金をもっと安くすれば、さらにどれほどの電気を人々は使うようになるのだろう。
昨年5月、日本のすべての原発が停止した。しかし財界は再稼働を進めないと日本経済が崩壊するといい、マスメディアは深刻な電力不足になると危機感をあおり、再び再稼働を容認するようになってしまった。しかし今でもメルトダウンした福島の原子炉は収束もせず、ただ水をかけることしかできない状況にあり、東電自身も1時間当たり1千万ベクレルという単位のセシウムが大気中に出ていると言っている。それにもかかわらず国民の危機意識は薄れ、一切も責任を取らない政府は、福島の事故を忘れさせようとしているかのごとく電力システムを改革するという。
産業界では多くの企業がさまざまな節電対策を取っており、太陽光発電などの発電設備を持つ企業もある。発電所を持つJR東日本は事故のあと余剰電力を東京電力に供給していたと聞く。原発がなければ電力不足というのは真実ではないし、真夏の数時間のピークのために原発が必要だというのなら、それは操業時間の調整や家庭ではテレビを見ないといった対策で乗り越えなければいけないことなのだ。
日本では近年、金融システム改革や財政構造改革など多くの改革がなされた。それらの受益者は国民ではなく、大企業、大銀行、富裕層といった一部の人々であった。政府の命令で原発を推進し、いま政府の命令で原発を停止させられた電力会社は、原発停止によって資産である原発の設備や核燃料はすべて損失となる。電力システム改革によって市場が自由化されれば、資本の豊富な大企業が電力産業に参入し、電力業界の勢力図は大きく変わるだろう。環太平洋連携協定(TPP)によって外資の参入は間違いない。電力料金は一時的には下がるかもしれないが、欧米を前例にとれば規制緩和のあとは再び値上がりする。それが電力システム改革だと思っておいたほうがいい。