6月初め、アメリカの雇用統計が発表され、失業率は悪化したが非農業部門の就業者数が予想を上回り、17万5千人増加したと報じられた。
過去数十年間にわたって新自由主義のグローバリゼーションを推進しているアメリカでは、大企業と一握りの富裕層が栄える一方で、多くの国民は貧しくなっている。低所得者向けの食料費補助対策であるフードスタンプ(現在は補助的栄養支援プログラム:SNAPと呼ばれる)の受給者は増え続け、失業者にはカウントされずとも、貧困層にかわりはない低賃金の職に就く人の多くがその受給対象だ。
金融危機に見舞われた2008年、アメリカの失業率は10%、SNAP受給者は約2800万人であった。今年2月、失業率は7.7%に下がったが、08年以降増え続けたSNAP受給者は、今年3月に4700万人を超えた。SNAP受給者1人当たりの平均月収は133ドル、3人家族なら年収は2万5千ドル(約245万円)である。受給世帯はアメリカの貧困世帯とほぼ等しい。
SNAPはデビットカード式で、それを使って食料を買うことができる。アメリカ人の15%がこのように政府から食料供給を受けて生活しており、このプログラムに政府は昨年746億ドルを費やした。統計では、受給世帯の4分の3は少なくとも1人は職に就いているが、それでも家族がまともに食べていけるだけの給料は得られない。これがアメリカの実情である。
グローバリゼーションの受益者は、雇用を賃金の安い国へ移転して利益を上げる企業であり、国内には働いても家族を養えない安い賃金の仕事しか残らない。アメリカで新しく創出される雇用は、政府の仕事を除くと海外へ輸出ができないサービス業がほとんどなのである。かつてアメリカを強くした製造業は賃金の安い海外へ移転した。それが最も簡単に利益を上げる方法だからだ。
今、アメリカでは正規社員の職に就くのは容易ではなく、統計では勤労者の5人に1人がパートタイムで働いている。パートが増えている理由の一つは、オバマの医療保険制度改革により正規社員が50人以上いる企業は14年から社員に健康保険を提供することが義務付けられるためだ。これを回避するために雇用者はパート社員を雇う。日本でも小泉政権の構造改革以降、非正規雇用が増加した。いまさらに終身雇用制度は若者の雇用機会を奪うとして、自由な解雇や、『多様な働き方』を可能にするための規制改革が叫ばれている。しかし現実は、終身雇用制度のないアメリカでも大学を卒業しても正規社員になれる若者はごくわずかしかいない。改革の本音は雇用者に都合のよい制度を作ることなのだ。
経済を活性化するには豊かな中流層が必要である。中流層は、金利や株の配当、不労所得ではなく、労働によって生活の糧を得ている人々であり、だからこそ、安定した正規雇用が必要なのだ。大多数の国民である労働者に良いことは、社会にとっても良いことなのだが、アメリカを模倣することしか知らない企業経営者は、困窮するアメリカという国を目の前にしてもまだそれが分からないようだ。