アメリカの中央情報局(CIA)と国家安全保障局(NSA)で政府の情報収集活動に関わっていたエドワード・スノーデン氏が、米政府が極秘にインターネットや通話記録を盗聴して情報収集していることを英紙に暴露した。通信の自由を侵し、盗聴した側であるオバマ政権は、いま、盗聴を暴いた人間を訴追するのに必死である。
この内部告発はさまざまな問題を提示した。一つ目は個人のプライバシーである通信を当人に秘密で国家が盗聴している事実である。米政府は「テロリストを探すためにやっている」と弁明するが、スノーデン氏が命の危険を冒して告発したのは、米政府がそれ以上の行為をしていたことを知ったからに他ならない。
米政府の秘密情報活動については、「エシュロン」という通信傍受システムを使い産業スパイをしていることはすでに知られている。したがってグーグルやマイクロソフトなどと緊密に協力して集めた外国の政府や企業の機密情報を使い、NSAが産業スパイ行為をしていると考える方が自然である。スノーデン氏はまだ多くの機密情報を握っているとされ、自分たちの行為をこれ以上暴露されないために米政府はなんとしてでも彼を捕まえる必要がある。
もう一つは、米政府がテロ対策だとして盗聴や情報収集をしているが、その政府機能を民間企業が行っているということだ。スノーデン氏はNSAで勤務している時にそのスパイ行為を知り、作業を請け負っている民間企業ブーズ・アレン・ハミルトン社に数カ月前に転職して証拠を入手した。言い換えると、政府が国家機密だというものに民間企業の一契約社員がアクセスできたのである。
あらゆることが民営化されたアメリカでは、政府のスパイ活動の一部をブーズ・アレン・ハミルトン社という軍事秘密情報企業大手が請け負っており、その親会社はカーライル・グループという投資会社だ。民間人の会話を盗聴、収集し、分析するという業務を民間企業の利益部門が行っているのである。それがどれほどもうかるのか、投資会社が目をつけるのだから利益があることは間違いない。
イラク戦争では軍の派遣部隊よりも数多くの民間軍事企業の社員が働いていることが問題となったが、アメリカは戦争すらも民間企業にアウトソースしている。戦争は企業の利益部門なのだ。またアメリカには多くの民間刑務所がある。民間企業が刑務所を経営すれば、利益を出すためには犯罪は多いほうがよく、多くの受刑者を長く刑務所にいれておくことだ。これで果たして国家にどのような益がもたらされるのだろう。
これは戦国時代だ。15世紀末、幕府が弱体化して戦国大名に乗っ取られたように、民営化、規制緩和により政府は資金力のある企業に統治を受け渡した。政府に代わって企業が盗聴を行い、産業スパイだけでなく、政治家や官僚のプライバシーも盗聴し、その秘密をもとに脅迫もできる。そうすれば大統領さえも思い通りに動かすことも可能だろう。
いずれにしても、この告発でアメリカが、世界を監視・盗聴するシステムを構築していることが衆目にさらされた。民主主義をうたいながら、独裁主義であった証拠が世界に突きつけられたのである。