8月初旬から、日本列島は強烈な暑さにみまわれた。高知県四万十市では国内観測史上最高気温となる41度を記録したばかりか、40度を超す日が続き、35度以上となる猛暑日は全国的な現象となった。
アスファルトの都心では、おそらく気象庁の観測機器が測定する気温を上回り、さらに過酷な体感であったろう。これだけ暑いとクーラーや扇風機に頼らずにはいられない。日本で電力需要がピークになるのはまさにこの時期だ。だから福島の原発事故後、昨年、一昨年と政府や電力業界はメディアを使って「電力不足キャンペーン」を展開した。そして原発を再稼働しなければ夏の電力が不足し、国民生活や産業に影響を与えると警告、さらに火力発電による燃料費増加のため、電気料金を引き上げなければならないと強調したのである。
しかし今年はこれほどの酷暑にもかかわらず、政府や電力会社から国民に節電をよびかける声はほとんど聞こえてこない。これはどういうことかといえば、原発がなくても電力は足りている、ということだ。この暑さのなかで稼働していたのは大飯原発のみ、さらに16日には、大飯原発4号機の停止により、1年2ヶ月ぶりに日本にある原発が全て停止された。
なぜ福島原子力発電所がメルトダウンという放射能汚染事故を起こし、今でも人々が避難生活を送っているのかといえば、2011年3月11日に起きた大地震と津波による。日本列島は環太平洋火山帯の上に位置し、だから美しい島や火山、温泉があるが、同時に世界で最も地震の多い地帯である。したがってそこで暮らす人々の安全を考えれば、危険な原子力発電所を造ることなど論外の場所なのだ。
政府はこの小さな日本列島に50基以上の原子力発電所を建設してきた。そのほとんどは福島のように冷却用の海水が得られる沿岸地域に位置している。現在、福島第1原発からは1日あたり約300トンの放射能汚染水が海に流出しているという。参院選挙が終わってから突然報道されたが、以前から出ていたという指摘のほうが正しいだろう。汚染水をくみ上げて貯蔵するという対策は一時的な解決策にすぎず、処理をしたとしても放射能で汚染された水を海に捨てるしか方法はない。原発事故の後処理もできず、放射能による海洋汚染を続けている国が原発を再稼働するなど無責任極まりないにもほどがある。
事故から2年半たち、東電だけに任せられないと政府は汚染水対策に国費を投入するとして、経済産業省が予算を要求しているという。建設、維持、そして廃炉や事故処理、すべての費用を合わせれば原子力が安価なエネルギーでないことはもはや疑う余地はない。
南海トラフによって巨大地震が今後30年の間に70%の可能性で発生するといわれているが、自然界における「発生」とは、今この瞬間に起きてもおかしくない。原発は安全で、原発がなければ電力が足りないとか、原発が一番安い電力ということがうそだったことが明らかになった今、それでも政府が原発に固執する理由は何なのだろう。
(追記。安倍首相は東京への五輪招致の演説で、「私から保証をいたします。状況は統御されています。東京にはいかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。・・・」と世界に発言した。汚染水が漏れているのに「アンダーコントロール」と言ったのだ。なぜここまではっきりと嘘がつけるのか。まったく理解不能である。)