No. 1050 米と旧ソ連の役割交代か

アメリカ政府が行っていた世界監視プログラムを暴露した元CIA職員エドワード・スノーデン氏がロシアに亡命して2カ月以上たつ。

日本のテレビや新聞での報道は少ないが、欧米のメディアではスノーデン氏が暴露する情報が継続して報じられ、イギリスのガーディアン紙は、政府高官から記事を書かないようにという圧力にも屈せず、イギリスの情報機関(GCHQ)がスパイに関わっていた記事を掲載している。

スノーデン氏が暴露した文書によれば、米国情報局は数十カ国の大使館を盗聴し、その中には友好国の日本やEU代表部、韓国やフランスの大使館も含まれていたという。これに対して日本政府が正式に抗議したという話は聞いていないが、もし盗聴していたのが中国政府であれば、安倍首相はどういう態度をとっただろうか。

今回スノーデン氏が暴露した数々の文書の中には、コンピューターのソフトウエア企業を経営する者として見過ごせないことがある。スパイ活動にIT技術が利用され、IT企業も深く関与していることだ。

NSAはスーパーコンピューターを用いて暗号解読をしたり、IT企業の協力を得て商用ソフトウエアに裏口アクセスを作ってインターネット上の暗号化通信を解読したり、また電子メールやネット上での商取引に使われる暗号化のための国際基準グループの決定に対して支配力を行使したりしていたのである。アメリカに拠点を置く暗号化技術を販売している企業は、すべてNSAに協力しているとみてよいだろう。

これらの解読技術を自由に入手できるのはアメリカだけでなく「Five Eyes」と呼ばれるイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの情報機関もそうであるとガーディアン紙は報じている。そしてNSAに暗号を破られないようにするには、商用のソフトではなく、解読の難解な「強力な」暗号を使用するしかないとスノーデン氏は言う。

現代社会ではほとんどすべての情報はコンピューターの中にある。電子メールの送り先や内容、預金残高、何をいくらで買いどんなウェブを閲覧したのか。これらの個人情報を他者が見ることができないようにとウェブ閲覧の匿名化や暗号化プログラムなどを使う。しかし商用のアメリカ製ソフトであれば、NSAは裏口からデータを収集し、解析できるという。個人情報だけでなく産業情報も入手し、NSAは外国のライバル企業に対してアメリカ企業が優位に立つようその情報を利用しているのである。

インターネットを介して情報を盗む国が他の国を非難できるはずはない。しかし「アメリカ例外主義」という言葉がある。アメリカは他の国とその質において異なり、だからアメリカは世界でも例外的な立場にあって、国際法がアメリカの利益に供する場合を除いてそれに縛られるべきではないという信条だ。アメリカはその理論で、旧ソ連の警察国家よりもたちの悪い監視活動をおこなっているのであろう。自由と民主主義をもたらすといいながら軍事侵略を続けるアメリカと、スノーデン氏の亡命を受け入れたロシア。アメリカと旧ソ連の役割は交代したと言えるかもしれない。