No.1051 アベノミクスの姿

日本経済を復活させるとして打ち出された「アベノミクス」が始動して半年がすぎ、株価の上昇、高級品や住宅の売れ行きがよいといった話を聞く。さらに2020年オリンピックの東京招致決定は、アベノミクスの4本目の矢になると甘利経済再生相は言ったという。

これまでのところ恩恵を受けているのは、株や資産を持つ大企業や富裕層だ。アベノミクスの矢の一つである量的金融緩和政策は、民間銀行の保有する国債や債券を日銀が買い取って銀行にお金を渡す、つまり市場に出回るお金を増やすというもので、お金が増えればその一部は株や不動産にまわり、また円の価値は下がって円安になる。しかしそれはアベノミクスの目的である景気回復はもたらさない。なぜならこの政策は実体経済を無視しているからだ。

それを示す記事をロイターが報じた。中小企業を主要な貸出先とする信用金庫や信用組合の多くはアベノミクスの恩恵を全く実感していない、というものだ。記事では北海道の信用金庫を取り上げ、地方経済は厳しい現状にあり新しい事業や設備投資といったものはほとんどない。実体経済を後押しする貸し出し需要そのものがないのである。金融機関は市場から集めた預金を貸し出し業務にまわし、経済を繁栄させることが本業であるはずだが、借り手がいなければ国債で運用するしかない。8月の政府発表でも民間設備投資は6四半期連続の減少となった。

円安で増えるという触れ込みの輸出も、6月まで13カ月連続で前年割れしている。一方、円安は食料やエネルギーなどを輸入している日本の物価上昇を促し、6月の消費者物価の総合指数は前年同月比0・7%の上昇となった。

アベノミクスを推進する中心人物である竹中平蔵氏は、物価が上がれば遅れて賃金が上がるというが、その保証はどこにもない。さらに安倍政権は、「雇用の弾力化」として正社員をくびにしやすい法律を制定しようとしている。正社員を減らしてパートタイムなどの非正規雇用に置き換えれば企業はそれでコスト削減ができるのである。

安倍政権がアベノミクスで目指しているのは、規制緩和を進め、構造改革で企業を強化することで日本経済を強くすることだという。構造改革とはまさにTPPで、すでに軽自動車の自動車税増税の検討が始まっている。

「雇用の弾力化」により労働慣行もどんどんアメリカ化していくだろう。アメリカは経済が回復し失業率が改善しているといわれる。しかし実際にアメリカで増えたのはパートタイムの仕事である。1000万人のアメリカ人は仕事が見つからず、4700万人は政府が給付するフードスタンプを受け、500万人の住宅保有者は住宅ローンを払えない。企業がコスト削減や生産性向上で増えた利益は、労働者の手には渡らないのである。

インフレになろうと賃金は上がらず、正規社員が減って非正規社員が増える社会。「企業を強くする」というのはそういうことであり、企業や経営者に都合のよい、しかし労働者にとっては厳しい未来が待ち受ける、それがアベノミクスの姿なのである。